wish〜
ぼふんっという音とともに白煙が立ち上り、そこから現れたのは先ほどまでいた辮髪幼い子供ではなくきれいな黒髪を三つ編みにした浴衣姿の少女だった。
ベンチに腰掛けていた黒髪の青年は驚くこともなく少女へと近づき、そっと手を差し伸べた。
「おかえりイーピン」
「あっ、ただいま雲雀さん」
イーピンは雲雀の言葉に笑顔で答え、差し伸べられた手をとった。
そのまま2人は先ほどまで歩いていた道を再び歩き出す。
「十年前はどうだった」
そう雲雀が尋ねれば、イーピンは思い出したかのように先ほどまでの出来事を話し始めた。
幼い頃幼馴染のランボの十年バズーカによって頻繁に十年後と入れ替わっていた。
今がちょうどあの頃から十年目。
イーピンが十年前に呼ばれることが多くなった。
始めの頃は戸惑ってばかりだったイーピンだったが、最近では少し余裕が出てきて十年前の皆に会うことを楽しく思っている。
何しろ兄のように慕っているボンゴレ十代目ボスのツナや獄寺、山本たちが自分よりも年下なのだ。
それはとても不思議な感覚だった。
そして、何よりも嬉しいのは十年前の雲雀に逢えること。
今よりも幼い顔立ち。
鋭利な刃物のような眼差し。
恐ろしいほどの殺気。
十年前、一目見たその瞬間イーピンは恋に落ちた。
「今日は沢田さん達が皆で出店してましたよ」
「ふーん、出店ねぇ」
「はい、チョコバナナ屋でした」
「そう」
雲雀はあまり関心が無いようだったけれど、イーピンは楽しそうに話す。
「あの後売り上げをひったくりに盗られちゃって大変だったんです」
「間抜けだね」
「でも雲雀さんが助けてくれたんです」
「そうだっけ」
「覚えてないんですか」
「全然」
本当に覚えてないのだろう。
雲雀はそんなことあったっけという風に過去を振り返っている。
(やっぱり覚えてないんだ。雲雀さんらしいけど)
雲雀は興味のあるもの以外には固執しない。
だからきっと十年前の出来事も雲雀にとってはたいしたことじゃなく、ただの気まぐれだったのだろう。
けれど、イーピンにとって十年前の出来事は決して忘れることの出来ないものだった。
あの時、大勢に囲まれていたイーピンたちの前に現れたのは愛用のトンファーを持った雲雀で、恋焦がれる相手が助けに来てくれたことが(実際には違うのだが)、イーピンにとってどれだけ嬉しかったことか。
思わず照れてしまい箇子時限超爆を発動させてしまったけれど、本当は涙が出るほど嬉しかったのだ。
「イーピン、少し急がないと時間間に合わないんじゃない」
雲雀にそう言われて、ふと腕時計を見ると、花火の開始時間まであと十分。
イーピンは慌てて雲雀へと顔を向ける。
「雲雀さん、急ぎましょう!!このままじゃせっかくの花火に間に合いません!!」
「そうだね。さっさとイーピンのオススメの場所とやらに案内してもらおうか」
雲雀はそう言うとイーピンの手を更に強く握り、早足で歩き出した。
イーピンも雲雀に合わせて早足で歩きながら、繋がれた手の温もりを感じていた。
(もしこのことを十年前の私が知ったらどう思うかな)
そう思うと自然と笑みがこぼれる。
ただ雲雀に恋焦がれていた十年前。
あの頃にはこんな日が来るとは思ってもみなかった。
雲雀が傍にいて微笑んでくれる。
たったそれだけのことも幸せに思えるこんな日が。
十年前の思い出の場所で
雲雀と一緒に花火を見る。
こんな幸せな日々が
どうかいつまでも続きますように
END