月夜の願いを貴方に
水面に映る月は鮮やかな円を描き、何物にも遮られることなく地上を明るく照らしている。
外灯の無いこの河原でも、隣に座る雲雀さんの顔がはっきりと見えるほどだ。
バイトが終わり家に帰ろうとした私の目の前に現れ、
久しぶりの再会を喜ぶ間もなく車に乗せられ、ここに連れてこられた。
雲雀さんの行動が突拍子もないのはいつものことだが、
未だに雲雀さんが何を考えてるのかはいまいちわからない。
車を降りてからもとくに何かを話すわけでもなく、ただ斜面に腰を下ろして空を見ているだけ。
何か用でもあるのかと思ったが、この様子ではそうでもないらしい。
仕方が無いので同じように空を見上げれば、
藍色に染まる世界で色とりどりの星が煌いてその存在を示している。
雲一つ無い満天の星空を見たのは一体いつ以来か。
輝く星がまるで宝石のようでとても綺麗だと、無意識に感嘆の息を吐く。
土と草と木の匂い。
風に揺れる草木の奏でる音。
頬を撫でる風はさすがに少し冷たいが、けれど心地よいもので。
風に踊らされた木の葉が辺りに舞う。
舞い上がった木の葉がひらりと顔の前に来たので何気なく手に取ってみる。
夕陽のように真っ赤な紅葉。
どこか温かさを感じるそれに自然と口元が緩む。
くるくると木の葉を指で回しながら、チラリと横目で雲雀さんの顔を窺う。
相変わらず綺麗な顔立ちだったが、ふと違和感を覚えた。
じっと空を見つめる漆黒の瞳が、なぜか元気が無いように見える。
空を見ているようで、その瞳はどこか違うものを見ているようだ。
「雲雀さん」
「ん」
反応はあるが、瞳は未だ空に向けられたまま。
「なにか、ありました?」
「別に」
抑揚の無い声で返される。
けれどその声音にもいつものような覇気が感じられない。
雲雀さんのこんな状態は本当に珍しい。
やはり何かあったのだろう。
部下の人が怪我をしたのかもしれないし、
研究が上手くいってないのかもしれない。
まあ聞いたところで決して答えてはくれないだろうけど。
いつだって肝心なことは話してくれないのだ。
そういうところは昔から変わらない。
だから私はこれ以上何も聞かない。
聞いたところで無意味だから。
何も聞かない代わりに、すぐ傍で地面についている雲雀さんの左手に自分の右手を重ねる。
触れあう手と手で感じる互いの体温は、夜風で冷えた身体にはとても心地いい。
こちらに視線を向けた雲雀さんと目が合って、照れを隠して笑顔を作った。
そうすれば雲雀さんも優しげな笑みを浮かべてくれた。
次の瞬間、重ねた手を軽く引かれて、全身を温かな体温に包まれる。
抱きしめられているのだとすぐに気づく。
鼻孔を擽るのは雲雀さん愛用の香水の香り。
そしてそれに僅かに混じる血の匂い。
背中に回された腕はしっかりと私を捕まえ、肩口に雲雀さんの顔が埋められる。
そしてそのまま微動だにしなくなった。
普段とは違う様子に一瞬驚いたが、そっと腕を雲雀さんの背中に回す。
そして、普段雲雀さんがしてくれるようにその頭を撫でる。
子供をあやすように、ゆっくりと、優しく。
いつもは私が落ち込んで雲雀さんが頭を撫でてくれるのだけど、
逆の立場になると少し照れくさい。
けれど、手の動きは止めない。
いつも私が支えてもらうばかりで。
たまには私だって雲雀さんを支えたい。
力になりたい。
そう思うから。
いつも与えられる温もりが、少しでも返せればいい。
辛い時に、泣きたい時に、雲雀さんがそうしてくれるように、
私の存在が少しでも支えになればいい。
一人じゃないのだと、私は傍にいるのだと気づいてもらえればいい。
だから、手を止めない。
「ねえ雲雀さん」
頭を撫でる手のひらからこの想いが全部伝わればいいのに。
そう願わずにはいられない。
「私はここにいます」
たとえ何があっても貴方の傍にいるから。
だから安心してください。
背中に回されている腕の力が強くなるのに気づかないふりをして、そのまま頭を撫で続けた。
END
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☆携帯サイト一周年フリリク企画☆
繭さんからのリクが『イーピンに甘える雲雀』ということだったんですが…。
遅くなったうえに雲雀さんが別人過ぎてあきらかに違うキャラになってて申し訳ない…orz
全国の雲雀さんファンに土下座して謝りたいですm(_ _)m
返品、修正は24時間受け付けてますので。
ではでは、リクありがとうございました♪
こちらは繭様のみお持ち帰り可です。
2008.11.08