「ロイド……どうして……」

震えるように紡ぎだされた親友の声がずきりと胸に刺さった。



92.戻れない



大いなる実りの発芽により生まれた新たな大樹。 本来なら人の踏み込めない聖域とも言うべき場所にロイドはレアバードを下降させ、地面に降り立った。 レアバードのエンジン音を聞いて、大樹の守人となったユアンが姿を現す。 ロイドはレアバードをウィングパックに収めると、小さく手を挙げてユアンに応えた。

「悪い。イグニスのコアを奪われた」
「なんだと」

開口一番、ばつの悪そうな顔で告げるロイドに、ユアンは眉を顰める。

「本当に、ごめん……」

視線を逸らして、少し固い口調で告げるロイドの様子が普段とは違うことに気づき、ユアンの瞳が細められる。 この二年で成長したとはいえ、感情が表に出やすいところはあまり変わってない。 こういうところは父親に似てないなと、ユアンは頭の片隅で戦友であるロイドの父親の顔を思い浮かべる。

「何があった」

ため息混じりに発せられた言葉に、ロイドの瞳がユアンに向けられる。 ユアンの追求に観念したようにロイドがぽつりと話し出す。

「ラタトスク……いや、エミル達と一緒にジーニアスと先生がいて。それでちょっと動揺した」

まさか二人がエミルと行動を共にしているとは思っていなくて、その姿を見た瞬間全身に震えが走った。 なぜ、という疑問が心に溢れて、それでもそれを表情に出さないように必死に堪えて。

わかっていたはずだった。 姿を消した自分を仲間達はきっと捜そうとすると。 自分が逆の立場だったら間違いなくそうしていたから。

向けられた今にも泣きそうな眼差しが、震える声で放たれた疑問が、頭から離れない。

親友にあんな顔をさせているのは、他でもなくロイド自身だというのに。

自分で決めたこの道を、最早戻ることはできないとわかっている。 それでも苦しくて堪らない。

「そうか、やつらがいたか」

ロイドの心情を察したようにユアンの瞳が一瞬だけ伏せられる。 だがすぐに開かれて、真剣な眼差しがロイドを捕らえた。

「だが忘れるな。我々はなにがあっても世界樹を護らねばならないということを」
「わかってる」

ユアンの言葉にロイドは静かな声で返す。

「次はちゃんとコアを手に入れる」
「またお前の仲間達が現れるかもしれん。本当に大丈夫なんだな」
「ああ。もう迷わない」

もう覚悟は決めたのだ。

まだ小さい世界樹を危機に晒すわけにはいかない。 世界樹を失えば世界は荒廃の道を歩むことになってしまうのだから。

躊躇っている時間はどこにもない。

二人はまだラタトスクを見極められていない。 世界を滅ぼす存在であるかどうかを。 だから今はコアの影響を受ける可能性のある仲間達に全てを話すわけにはいかない。 これはロイドが一人でなすべきこと。

たとえそれが孤独を歩む道だとしても。 いつか全てを話せるその時まで、偽りの仮面を被り、この道を進み続けるしかない。

かつてロイドの父親がそうしたように。

脳裏に浮かぶ親友の泣きそうな顔を振り払うように一度だけ頭を振った。



(あの時のあんたもこんな気持ちだったのか)

今はもう手も届かない、遥か遠い場所にいる父親に心の中で問いかけた。





END

********************************************************

この話はラタトスクをクリアした時からずっと書きたかった話です。
ロイドにしてみれば仲間達の介入はわかっていたこととはいえ、かなり辛かったと思うんです。
ロイドは仲間の事を本当に大切に思ってるのに、何も話せない、手を借りるわけにもいかない。
それでも世界の仕組みを変えてしまったものとして、世界を守る責任があって、父親と同じ道を選ぶしかない。
たぶんロイドはかなり悩んで、一人でコアを集める道を選んだんだと思います。

2009.11.12