自分に残された時間が少ないと知って、限られた時の中で何をしたいのかと考えた時、一番に浮かんだのはティアの顔だった。


59.決意




ティアの唇からゆっくりと譜歌が紡がれる。 美しく、どこか神秘的なその歌声は草木の鳴らす音色に負けることなくしっかりと耳に届いて、 まるで風に乗って世界中に運ばれているのではないか、そう思う。



まもなくこの身体は消える。 それは変えようのない事実で。 いくら生きたいと願ったとしてもそれが叶うことはきっとない。 時折透けてしまう腕がその証。

怖くないわけじゃない。 いつ消えてしまうかわからないこの身に恐怖に眠れぬ夜を過ごす事だってある。 それでも、もう前に進むしかない。 その運命を受け入れると覚悟を決めたのだから。



譜歌を歌って欲しいと頼んだ時、ティアは一瞬驚いた顔をしたがすぐにその瞳を穏やかに細めて微笑み引き受けてくれた。

いつからかティアの歌を聞くと心が落ち着くようになった。 初めの頃はそれはきっと特別な譜歌だからだと、そう思っていた。 だけどそうではなかったと気づいたのはそれからしばらくして。

自分にとって特別だったのは譜歌だからではなくティアの歌声だったから。 優しくて、澄み切った、全てを包み込む穏やかな歌声に惹かれていたんだ。 そう気づいてから更にティアの歌に惹き付けられている自分がいる。

初めてティアの歌声を聴いたのはもうずっと昔のように思える。 けれど実際はまだ一年と経っていない。

ティアと出会ってから本当にいろいろなことがあった。

傷ついて、傷つけて。
悩んで、迷って、泣いて。
絶望に打ちのめされて。
自分さえも見失いかけて。

それでも変わらず傍にあってくれた、この優しい歌声にどれだけ支えられてきたのだろう。

そっと瞼を伏せ、その美しい旋律を心に焼き付ける。

深く、深く。
心の最奥に。
決して忘れることの無いように。

この身体が消えても、心だけはこの美しい旋律を覚えていられるように。








END

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TOAよりまたまたルクティアです!
ルクティアはほのぼのかシリアスがよく浮かびます。
あんまり(というか全く)お題と合ってないですが、そこはまぁ皆様の寛大なお心で許していただけたらと思います。

2009.10.29