薄暗い室内。 その中心に置かれた寝台の上に静かに横たわる少女。 シーツの海に広がる鮮やかな桃色の髪は、暗い室内でも確かな存在を主張している。

瞳を閉じたその顔はとても穏やかで、ともすれば今にもその瞳が開かれ、自分を映してくれるのではないか。 そう思ってしまう。 だが、アリエッタの肌は透き通るほど白く、頬に触れた指から伝わる氷のような冷たさが、 少女の瞳が二度と開くことはないのだと、その真実を否が応でも突きつける。

「……アンタ、ほんと馬鹿だね」

聞く者のない呟きが無意識に口から零れた。



8.失くしたもの




「行ってくる、です…」

あの日そう言いながらこちらを見上げてきたアリエッタの瞳には、揺らぐことのない決意があって。 それと同時に、別れを覚悟した切なさがあった。

いくらアリエッタでも、奴らを相手にして無事でいられるはずはない。 これがきっと最後の別れになると、お互いに心のどこかで理解していた。 それでも、交わすのは別れの言葉でも抱擁でもなく、ただ数回、アリエッタの頭を軽く撫でてやっただけ。

「まあ、せいぜい頑張りなよ」

皮肉交じりにそう言った自分に、アリエッタは嬉しそうに笑った。 それは今まで見たどの笑みよりも幸せそうで、でも儚くて。 その笑みを残してアリエッタは扉の向こうへと消えた。 それが彼女の最後の姿。

あの時、去っていく彼女の手を掴めば何かが変わっただろうか。




彼方で響いていた斬撃の音が徐々にこちらに近づいてくる。 間もなく奴らはここに来るだろう。 だが、仇討ちなんて自分の柄じゃない。 自分は、自分のために戦うだけだ。

「行ってくるよ」

横たわるアリエッタの唇に自分の唇を重ねる。 触れた唇はひんやりとした感触だったが、それで十分だった。

身体を起こし、踵を返して部屋の入り口に向かう。 扉を開ければ、眩い光が室内を満たしていく。 外へ足を踏み出しながら、もう一度だけ、静かに眠る彼女の姿を目に焼き付ける。

そして―――



「         」




彼女への最後の言葉は、誰の耳に届くこともなく空気に溶けた。








END

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TOAよりシンアリです!
シンアリはなんていうか可愛いカップルですよね!
アリエッタとアニスの決闘は涙が止まりません。

2009.06.13