これも一つの愛の形
ほのかに甘い香りが鼻孔をくすぐり、室内に漂う。
イーピンは落ち着かない様子で香りのもとであるオーブンの前をうろうろと動き回る。
時折オーブンの中を覗いては複雑そうに眉を顰める。
その様子を近くで道具の片付けをしながら見ていた草壁は、そっと口元を緩めた。
「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ」
「で、でも、失敗してたら…」
草壁は心配そうに項垂れるイーピンの頭を元気付けるように優しく撫で、励ますように言葉をかける。
不安気に瞳を揺らし、おずおずと見上げてくるイーピンの頭をポンポンと軽く叩き、手を離す。
―チンッ
さらに励ましの言葉をかけようとした草壁を遮るように、二人のすぐ傍で機械音が鳴った。
「!」
「焼けたみたいですね」
びくっと肩を跳ねさせ、ぎしぎしと目線をオーブンへと向けるイーピン。
その瞳に映るのは期待か不安か。
草壁はそんなイーピンをオーブンから少し下がらせ、手にミトンをつけ、オーブンのドアを開く。
開いた瞬間広がる熱気。
今までよりも強く感じる甘い香り。
そして、立ち上る湯気。
その中から、こんがりと狐色に焼きあがったハート型のクッキーが姿を現す。
それを見たイーピンの顔がぱぁっと明るくなる。
先ほどまでの不安な表情はどこへ行ったのか。
両手を合わせ、焼きあがったクッキーを嬉しそうに見つめる。
その顔はまさに年頃の女の子といったところか。
その様子を微笑ましく思いながら、草壁はオーブンの中から天板を取り出し、テーブルの上に置いた。
「上手く焼けましたね」
「はい!」
弾む声で返事をするイーピン。
天板の上に乗っているクッキーはとても美味しそうな狐色で、香ばしい香りを辺りに漂わせている。
クッキーを楽しそうに一枚一枚用意してあったバスケットに移していく。
「あの、草壁さん」
「何ですか?」
「味見、してもらってもいいですか」
「ええ、もちろんです」
イーピンが少し小ぶりのお皿に乗せた数枚のクッキーを両手で持ち、草壁の方に差し出す。
草壁はそれを一枚指先で掴み、口に運んだ。
そして、一口かじる。
イーピンはドキドキしながらその様子をじっと見上げている。
クッキーは甘さが控えめで、とても食べやすい。
一緒に入れてあるゴマの風味が程よく利いている。
草壁はクッキーを味わって飲み込むと、口を開いた。
「とても美味しいです」
「本当ですか!?」
「はい。これなら恭さんも喜びます」
その言葉にイーピンは顔を真っ赤にしながらもにっこり笑った。
本当に幸せそうなその笑顔を見ながら、草壁は食べかけのクッキーを食べる。
そうして優しく微笑んだ。
数時間前、久しぶりに休暇を貰った草壁がアジトの廊下を歩いていると正面からイーピンが現れ、クッキーを作るのを手伝って欲しいと頼んできた。
イーピンが普段料理やお菓子を作る時、京子やハル、ビアンキなどと作っているのを知っていた草壁が、何故自分に、と思い理由を尋ねるとイーピンは少し照れながらその理由を話し始めた。
なんでも、雲雀のためにクッキーを焼きたいと思ったらしい。
けれど雲雀は甘いものがあまり好きではない。
普段はそれでも食べてくれるのだけど、どうせ作るなら雲雀好みの味にしたい。
だから雲雀と一番付き合いが長く、ずっと傍にいる草壁なら雲雀の好きな味を知っているのではないか。
そう思ったらしい。
イーピンは幼い頃から本当に一途に雲雀の事だけを想い続けている。
それこそイーピンがほんの小さな子供だった頃から。
ただひたすらに雲雀の事だけを想っていた。
あの頃、雲雀に向けられていたものは敵意か恐怖。
ただそれだけだった。
けれど、イーピンだけは違った。
その瞳に映っていたのは本当に純粋な好意。
雲雀にとってそれはきっと初めてのもの。
だからこそ強い人間にしか興味を持たなかった雲雀が、イーピンに興味を持った。
初めはただの好奇心のようなものだったんだろう。
けれど、時間が経つにつれて、二人が一緒にいる時間は増えていった。
「草壁さん、本当にありがとうございました」
てきぱきと紅茶などを用意し、準備を整えるとイーピンは草壁に小さく頭を下げた。
先ほどの小ぶりのお皿に更に数枚クッキーを乗せると、よかったら食べてください、と草壁に手渡す。
そしてにっこり笑うと、パタパタとドアへと向かって行った。
向かうは、雲雀の所。
草壁はその後姿をじっと見つめる。
その目はとても優しく、大事なものを慈しむかのよう。
草壁はイーピンがどれほど雲雀を想っているのか知っている。
雲雀がどれほどイーピンを大切に想っているのかも。
おそらく、彼女の保護者的立場だったツナよりもよく知っている。
もう何年も雲雀の傍でずっと二人を見守り続けているのだから。
だから―――
その心にある想いを告げることは永遠に無い。
草壁にとって、雲雀とイーピンは本当に特別な存在で。
雲雀に対する敬慕と、イーピンに対する愛情。
それはきっと同じように大切で、捨てることは出来ない。
二人には幸せになって欲しいと願う。
傍にいるのが、笑顔を与えれるのが、幸せにするのが、自分ではないとしても。
誰よりも近くで二人の幸せを見守り続けることができるなら。
それは本当に幸せなことだと、そう思えるから。
だから
その想いを胸に隠して、ずっと二人の傍に。
草壁は渡されたクッキーを幸せそうに口に運んだ。
END
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HAPPY BIRTHDAY ふじこ!!!!!!
ということで遅くなりましたがふじこへの誕生日プレゼント『哲ピン』です^^
ほんと遅くなってごめんorz
しかも哲ピンじゃなくてヒバピン←哲になった。
なんか哲がお母さんだよ(泣)
私の文才じゃこれが限界><
こんなのでよかったら貰ってくだされ!
この1年がふじこにとって幸せでありますように…
2008.06.16