まだ陽が昇ってないような時刻。 衛兵以外が寝静まり静寂に包まれる太陽宮の廊下の壁に身を預ければ、 ひんやりとしたその感触がどこか心地よくて瞳を閉じる。

ゴドウィン卿との争いが終結し、太陽の紋章が太陽宮に戻ったのはつい一月前のこと。 戦後の事後処理もある程度終わり、国も少しずつだが安定してきた。

カツン

耳に届いた小さな足音。 音を立てないよう、気配を殺して静かに近づいてくる。 誰かなんてそんなのはわかってる。 壁から身を起こし、その人物の行く道を遮るように廊下の中央に立ち塞がった。

「王子、どこに行くんですかぁ〜」
「ミアキス……」

瞳を開けば予想通り、一定の距離を保って立ち止まった王子の姿。 廊下を照らすほのかな明かりのおかげで互いの表情がわかる。 その瞳は軽く見開かれていて、次いで優しく細められる。

「よくわかったね、今夜出発だって」
「王子のことなら何でもわかりますよぉ。これでも恋人ですから」

王子の服装は戦中と同じく、黒を基調とし、赤、青、金を散りばめた見慣れたものだが、 まるでそれらを隠すかのようにその上から外套を身につけ、 手には簡単な道具が入れられているであろう荷袋がしっかりと握られている。 それは明らかに今から旅立つための格好で。

「陛下には言ったんですかぁ?」
「うん、昨日の夜に伝えたよ」

(今日の陛下の様子がいつもと違ったのはやっぱりそれが原因ですね)

いつもよりも真剣に執務に取り組んでいた幼い陛下の表情が脳裏に浮かぶ。 あれはきっと王子に心配させまいとした、陛下なりの兄孝行のつもりなんだろう。 まあそのおかげで王子が今晩旅立つであろうことを予測できたわけだけど。

「それで?」

努めて普段どおりの口調で言葉を発するけれど、声音が強張るのが自分でもわかる。

「仮にも恋人に対して何か言うことはないんですかぁ?」
「それは…」

ぐっと押し黙る王子。

「………ごめん」

辛そうに、声を振り絞るように呟かれた謝罪の言葉。 それに込められた意味に気づいてしまった。

「……一緒に行こう、とは言ってくれないんですね」
「うん、答えはわかってるからね」
「それでも言うのが男ってものですよぉ」
「そう?じゃあ…」

首を傾げながら苦笑する姿は昔から変わらず、平和だった頃の太陽宮を思い起こさせる。 だけど、すーっとその表情が真剣なものへと変わる。 以前の王子がすることのなかった、大人びた表情に。

「ミアキス。僕と一緒に行こう」

言葉とともに差し出された右手。 こちらを見据える真剣な眼差し。

心はすでに決まっているはずなのに、誰よりも愛しい人から差し伸べられたその手の誘惑に 心が揺れそうになるのをぎゅっと唇を噛んで堪える。 胸の中から溢れ出そうになる感情を必死で押し殺し、こちらを見てくる透き通るような青い瞳に視線を合わせる。 向けられた瞳は深く、ともすれば吸い込まれそうで。 振り切るように小さく首を振り、笑顔を作る。

「一緒には行けません」

震えそうになる喉に力を入れ、きっぱりと告げる。

「だって私は陛下の護衛ですから」

もう二度と離れないと。 どれだけ辛くても涙も見せず、ただ前だけを向いて孤独に耐えた、 強くて弱い、この世で一番大切な少女を命の限り護りぬくのだと。

他の誰でもなく、自分自身に誓ったのだから。

王子が自分の道を決めたように、自分もまた決めたのだ。 例えそれが王子と違う道を進むことだとしても。

差し出されていた王子の右手が引っ込められる。 それと同時に、真剣な眼差しが普段の穏やかなものに変わって。 それを見てなにか吹っ切れたような気持ちになったのは、たぶん気のせいじゃない。

「フラれちゃったね」
「フッちゃいましたぁ」

顔を見合わせて笑いあう。

「リムのこと、よろしく頼む」
「任せてくださいぃ」
「ミアキスも元気で。あんまり無茶しないように」
「王子こそ、気をつけてくださいねぇ。怪我なんてしたら陛下が泣いちゃいますよぉ」
「気をつけるよ」

静かな廊下に小さな笑い声が微かに響く。 けれどそれも長くは続かず、徐々に収まって。 それが完全に止まった時、どちらともなく互いに別れの時が来たのだと感じた。

「じゃあ、行ってくる」
「はい、行ってらっしゃぁ〜い」

にっこりと笑って王子を見送る。 王子も穏やかな笑みを浮かべたまま止めていた足を再び動かす。

すれ違う時に耳に届いた「ありがとう」の言葉。
その瞬間、堪え切れなかった涙が頬を伝った。




共に歩むことは

      出来ないけれど


心は繋がっていると信じていいですか



END


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ついに書いてしまいました、王ミア!
幻水の中で一番のLOVEカプですvvv

一応この話は108星の旅立ちEDを前提として書いています。
ミアキスにとって王子は愛する人だけど、リムのことを一番大切に思ってるから、
リムを置いて王子についていくことはしないと思うんです。
王子もそれをわかってるからミアキスを誘わなかったっていう、そんな話です。
説明しないとわからないぐだぐだな話になってしまいましたが、でも書けて満足しています。

もしもまた王ミア書くとしたら、次こそは甘いものを…!

2009.03.19