長く永く
ガシャリと金属が擦れあった。炎天下の空に威勢のいい声が吸い込まれていく。
彼女は大きなあくびを一つした。
日陰に避難しているおかげで日は届かず、横からは心地よい風が細く吹き、暇を持て余す彼女を包みこむ。
彼女はぶつぶつと文句を口に含ませながら、手元のレポートを気だるそうに書き起こしていた。
一方、彼は人一倍声を上げ、体を動かしていた。
部下を元気付けようとして体に鞭打っているわけではなく、
ただ本人がこの環境に対し異常な適応力があるだけなのだ。
そんな一番の年長者であり隊長である彼を見て部下達はより一層声をあげる。
それがより一層、周りの温度を上げている事は言うまでもないだろう。
「あーもー、暑苦しい」
彼女は肩にかかる甘栗色の髪を一つにまとめた。
びっしりと書かれたこの演習レポートも、彼と一緒にいるための口実でしかなかった。
年を重ねるごとに問題は減るどころか増えるばかり。
今やテルカ・リュミレース一の秀才と謳われる彼女と伝説の騎士と謳われる彼の仕事は尽きない。
情報収集と称したこの紙切れに頼るでしか、共に時間を過ごすということが難しくなってしまったのだ。
「暑苦しいとは聞き捨てならないのであ〜る、リタ・モルディオ!」
「我らがレイヴン隊を愚弄する者は例え婚約者と言えど許しはしないのだ!」
「あんたらのそういう所が暑苦しいのよ!」
演習の成果をキラリと額に浮かばせながら、ひょろりとした男ところころとした男が彼女に近づいてきた。
成し遂げたと言わんばかりの清々しい顔で二人は弾けるように声を上げる。
彼女もまた彼らが振り散らす汗を避けながら彼らに負けないほどの声量で叫んだ。
それを見た鼻の下に髭を生やした男が三人をなだめようと仲裁に入るが、暑さに参っているのだろう、
若干の喧嘩腰が彼女の感に触ってしまった。
これだけ騒ぎ立てているにもかかわらず、周りの騎士は決して動じはしない。
それどころか歓声すら聞こえ始める始末だ。
それは彼女と騎士らのやりとりがいかに日常のものかを物語っていた。
「はーいはいはい、ストーップ」
しばらくすると、のうのうとした声が辺りを制した。
「きっとルブランたちも疲れてるのよ。まあ今日はもう十分でしょう、皆帰ってゆっくりしてちょうだいな」
紫色の袖をひらひらと揺らしながら部隊長は通る声でゆっくりと言う。
物足りないと騒ぐ部下たちにもう一度命令をすると、苦い顔をしながら部下たちは淋しそうな背中を向けた。
それも愛されている証拠なのだと、隊長は彼女に言う。
彼女はクシャクシャになった手元を見て呆れ果てた。
書き直すのも彼女の性格上ありえない。
どんなものでも提出しないよりはまし、0より1。
彼女はそう考えレポートを鞄に詰めた。
「元々はあんたがいけないんだからね。張り切っちゃって」
「おやおや〜、やきもちですか〜?一緒に居られないからって意地はっちゃっ…ぐはっ」
除きこんでくる彼の顔をそのまま肘打ちする。
鈍い音と悲鳴が聞こえた。
日も傾き始めていつの間にか日も弱くなっていた。
眩しくて見上げられなかった彼の顔を、彼女はようやく捉える。
彼もまた視界の端に見え隠れしていた彼女の顔を、ようやく捉える。
「お腹すいた」
彼女は彼の手を取った。熱がこもった手はいつもより大きく感じる。
「帰って甘いものでも食べますか」
彼は彼女にキスをした。冷たい唇が心地よくいつもより感触が柔らかく感じる。
長い二つの影はこれから待つ永い二つの時を示しているように見えた。
END
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尊敬するレイリタサイト様でキリ番を踏んだ時にリクさせていただきました(*´∀`*)
リクは『ED数年後レイリタ+ルブラン(小隊)』だったんですが、素敵すぎるレイリタに感謝してもしきれません!!!
婚約者という響きに興奮しっぱなしです(*^q^*)ノシ
ルブラン達とのやり取りもたまりません!!!
本当にありがとうございますvvv
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『座敷屋。』
2009.7.29