幼いころのことなど、忘れてしまっていたのに。
目隠し鬼
それは、突然訪れた。
「っ・・・なに・・・?!」
耳をつんざく爆発音、視界を遮る白い煙、肌にぶつかる砂埃。
それら全て、先程までイーピンには全く関わりの無いものだった。
リボーンが、何かやったのかな?
自分の周りにいた人間で、こんなことをするのは彼くらいしか知らない。 そう思い、不安になりながらも恐る恐る目を開けると、晴れた煙の隙間から、見たことも無い光景がイーピンの瞳に写った。
目の前には炬燵。その上に広げられているのは、綱吉が良く使っているのに似たノートと多くの分厚い本。多分、誰かの部屋。それは分かる。
けれども、沢田家の誰の部屋にも似ておらず、何より、イーピンが先程までいたのはまな板を手に入れるために訪れた道場で、そこから一歩も外へは出ていない。
もう少し、だったのにな。
ふと、そんな思いがイーピンの胸に浮かんだ。
あと少しでまな板を手に入れられると思ったのに、道場にいた男の人に捕らえられてしまった。
首根っこをつかまれてしまえば、手足の短さからイーピンが逃げられないのは明らかで。
「・・・。」
イーピンはじっと己の手を見つめた。
修行ではどうにもならない欠点。悔しいという言葉をイーピンはまだ知らなかったけれど、その目には涙がにじんだ。
ママンに会いたい。
突然、イーピンはそう思った。
「ママン・・・」
ママンはいつもいつも、イーピンたちを安心させてくれる。
例えば、悲しいお話を読んだときや怖いテレビ番組を見たとき、今までやっていたことを放り出してまで、突然抱きついてくるイーピンやランボの頭を撫でてくれるのだ。
『あらあら、どうしたの?』
そして、優しく、どうしようもない程暖かい笑顔をくれるのだ。
「ママンッ・・・。」
イーピンはきょろきょろと辺りを見回した。
電気は点いているけれど、人気の無い、寂しい部屋。
あの笑顔を思い出してしまったら、この部屋が、とても冷たく、空虚なものに思えてきた。
「ママンッ!」
部屋のドアを開け、台所を探す。 今までに何度かこんなことを、イーピンは体験していた。けれど、その時はこんな気持ちにならなかった。
知らない町を散策して、猫や犬と遊んでいればまたいつのまにか沢田さんの家に戻っていた。
だから大丈夫だと、自分を安心させればさせる程、不安が後から後から押し寄せて。
もしかしたら、もう、ここから戻れないんじゃないかとまで思って。
「ママンッ!!」
すぐに見つかった台所。
でも、そこにも誰もいない。誰かのいたような気配もない。
「マッ・・・!!」
思わず、泣きそうに顔を歪めたイーピンを、誰かがふわりと抱き上げた。
反射的に身体を硬直させる。
誰?
いくら修行中の身で取り乱していたとはいえ、イーピンはれっきとした殺し屋だ。
人の気配を探ることなど、呼吸をすることと同様に行えるよう訓練されている。
おまけに、イーピンは目が悪い。だから人の気配を探ることは、生きるために必要なことだ。怠れば、死ぬ。
師匠からの言葉を思い出し、イーピンは小さく体を震わせた。
怖い。
その事に気付いたのか、イーピンを抱き上げた腕の主は、微かにその頭を撫でた。
「怖がらなくても良い。何もしないよ。」
君には、ね。と付け足して、声は続く。
「もうすぐ元いた場所に戻れると思うけど、そのくらいじっとできるでしょう?」
言葉は疑問系になっているものの、答えがYes.であることを確信しているような口ぶりだった。
どこかで聞いたことがあるような声だ。抱き上げる腕も、この場所に来る前に戦った人のような、乱暴な感じではない。むしろ、ママンが抱き上げてくれているような、思わず眠ってしまいそうなほど安心できる、あの感覚に近い。
男の人。知ってる、人なのかな。
確かめようと思ったイーピンは、体を捻らせて顔を見ようした。しかし、不思議なことに視界が真っ暗。
目を、塞がれた。
「ダメだよ。君、厄介なことになるじゃないか。」
優しく言い聞かせるような言葉が降ってくる。だが逆らってはいけないと、イーピンの本能にも似た深いところが告げていた。
両目を塞がれたまま小さくうなずいたイーピンに、その人は軽く微笑んだ。気がした。
「良い子だ。」
多分その人はもう一度頭を撫でてくれたのだと、イーピンは思う。また突然起こった、それでも一度目よりはずっと小さな爆発音によって、よく分からなかったけれど。
気が付けば、イーピンは道場の中にいた。
沢田さんや、リボーンたちがいる。倒れている人の数が、増えているような気もしたが。
戻ってきたんだ。
あんなに望んでいた事なのに、どこかでがっかりしている自分がいることにイーピンは気が付いた。
結局、あれは誰だったのだろう。せめて名前だけでも知りたかった。
顔は見てはいけないといわれたけれど、何となく、名前だったら教えてくれていたような気がしてならない。
「イーピン。帰ろっか。」
しばらくたって、綱吉がイーピンを呼んだ。その声に反応し、イーピンは綱吉のもとに駆け寄る。
家に帰るのだ。
ママンの待つ、あの家へ。
その日起こったことを、イーピンは誰にも言っていない。
まるで夢のような出来事だったし、その後しばらくはそのときのことについて考えもしたが、なにぶん5歳の時だ。記憶の中にうずもれて、もうすっかり忘れてしまっていた。
それなのに。
それなの、に。
「おかえり、イーピン。」
自分を腕の中に収め、満足げに笑っている雲雀を見て、イーピンは夢の中にいるような感覚を味わった。
「・・・何で、」
何で、今まで忘れてたのかな・・・・。 今から思えば、不思議でならない。あんなに強烈な印象だったのに。
「イーピン。」
「あ、は、いっ?!」
今まで向かい合うような形で雲雀の腕の中にいたイーピンだが、横抱きの形に何の前振りも無く抱えなおされた。
そして、そのまま、隣の和室まで運ばれる。
「どうしたの?」
「え?」
「心ここに有らず。っていう感じがするけどね。」
そう言って、イーピンの頬を指でなぞる。次に来る動作がなんなのか、イーピンは分かっている。もう覚えてしまった。
それくらい、傍に居る。
イーピンのほうが体温が高いため、頬を指でなぞられたときは少し冷たい感じがしたが、今は違う。
熱い。
雲雀の吐息が、時折イーピンの頬や額をくすぐっていくのもあいまって、余計に。
「それで?」
一度動きを中断し、雲雀はイーピンを見つめた。
「十年前何が有ったか知らないけど、今日、僕は結構大変な思いをして仕事を終わらせてきたんだけど。」
不機嫌さが、雲雀の言葉の中に見え隠れする。しかしイーピンは、慌てるより先に、思わず苦笑してしまった。
「違いますよ。確かに十年前ですけど、あたしにとっては思い出の部類に入ることを思い出したんです。」
そこでイーピンは、雲雀の目をそっと塞いだ。
「雲雀さん。あの時はありがとうございました。あたし、結構不安だったんです。」
くすりと、雲雀が小さく笑った気配がした。
機嫌回復。
それが分かって、イーピンは嬉しそうに、そしてちょっと悪戯っぽく言ってみせた。
「雲雀さん、あたしはもう、貴方の顔を見ても良いですか?」
雲雀からの言葉は無い。けれど、雲雀の目を覆っていた方の手首がつかまれた。
そして手のひらに、熱い熱い刺激。
その熱を含んだ2人の視線がからまって、次の瞬間には、刺激がイーピンの頬や額や唇を襲ってゆく。
こうなってしまえば、もうイーピンは雲雀の事しか考えられない。感じることもできない。
耳元で、楽しそうな雲雀の声がした。
「目隠しは、まだ外してあげないけどね。」
雲雀の事しか、見えない。
鬼さんこちら、手の鳴るほうへ。
気配を追って、捕まえて。
決して目隠し取らないで。
君がこの場に来るように。
さて、
囚われたのは、いったいどちら?
END
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穂高 珠様から貰ってきたvvv
タマちゃん!!出血多量で今にも倒れそうです!!
子ピンが可愛いvvv
大人ピンと雲雀さんがラブラブvvv
てかお姫様抱っこー!!!!!!
私にはこんな甘いの書けないよ(><)
タマちゃん本当にありがとうございました♪
穂高珠様のサイトはこちらから『堕落道楽』
2008.01.14