日常に溶けた非日常




トントントン

規則的に響く音にゆっくりと目を開ける。
少し開いたドアの先から聞こえるその音は、以前のこの家には無かったもの。
この音が当たり前になったのは半年前、彼女が一緒に住むようになった日からだった。
葉の落ちる音でさえ目が覚める自分にとって、本来なら不快なはずのその音が心地よく感じる。
ほのかに鼻孔をくすぐる香りも今では日常の一部。

(全く、僕も随分と丸くなったものだね)

苦笑いをしながらベッドから下り、近くにあったシャツを羽織って寝室を出た。




「あっ、おはようございます」

ドアを開けると彼女はすぐに僕に気づいて挨拶をしてきた。

「丁度起こしに行こうと思ってたんです!」

にっこり笑い、そう言う君に「おはよう」とだけ返して食卓に着く。
テーブルの上には彼女が作った朝食。
彼女が座るのを待って、二人で「頂きます」を言ってから箸を動かす。
これは彼女と一緒に暮らすようになって初めて交わした約束。
任務などで一緒にご飯を食べれる機会が少ないのだからせめて、と彼女が言ってきたのだ。
通うはずだった大学を捨て、憧れだった普通の生活さえも捨てて自分について来てくれた彼女。
だからこれくらいは言うことを聞いてあげようと思った。

味噌汁を啜り、近くにあった玉子焼きを口に入れる。
その瞬間広がる味に思わず眉間に皺が寄ってしまった。

「…」
「どうかしました?」
「……別に」
「?」

僕の様子を伺いながら食事をしていた彼女は、僕の異変に気づいたようだ。
首を傾げながら、僕と同じように玉子焼きを口に入れた。
すぐに彼女の眉間にも皺が寄る。

「……甘い」
「…」
「ごめんなさい……失敗しました」

しょんぼりとすまなさそうに謝る彼女。
そう、この玉子焼きはかなり甘い。
甘いのが好きな彼女でさえ甘すぎだと思うのだから相当のものだ。
口の中に広がった甘い味をお茶を飲むことでなんとか消そうとする。
なんとか味が消え、はぁとため息を吐けばすっかりと落ち込んでしまった彼女はびくっと肩をすくませ、こちらを伺うように見ている。

(しょうがないね)

再び箸を動かす。
その先には甘すぎる玉子焼き。

「えっ?その、無理して食べなくていいですよ!」

慌てて止めようとする彼女の言葉を無視して、再びそれを口に入れる。
口に広がる過剰な甘さ。
ゆっくりと流し込み、不安そうにこちらを見る彼女を見た。

「あ、あの…雲雀さん?」
「食べれないこともないしね」
「で、でも!」
「いいから君も食べなよ」

なおも言い募ろうとする彼女だったが、朝食を再開した僕に「…わかりました」と返して朝食を食べ始めた。
沈黙が流れる空間。
いつもなら明るい彼女が、これくらいの失敗で落ち込むなんてらしくない。

「ご馳走様」

朝食を食べ終わり、箸を置いて席を立つ。
反射的に顔を上げた彼女と視線が合った。

「ねえ」
「はい…」
「ハンバーグ」
「?」
「夕飯はハンバーグ作っておいてね」

それだけ言ってドアに向かって歩いた。

「は、はい!」

背中に届いた声は明るくて。
やっぱり彼女は元気な方がいい。
彼女が今どんな表情をしているかも簡単に想像が出来てしまう。

(今日は早く帰って来よう)

そう心に決めてドアを閉めた。




END
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後書き
携帯サイト8888打HITキリリクでごろぉ様より
『ちょっと料理苦手なピンとそれを見守る雲雀さん』というリクだったんですが
…すみません、全然リク通りじゃないです(土下座)
しかもかなりお待たせしてしまった…。
師匠!3ヶ月近くかかってしまって本当にすみません(´А`)。。。
返品可ですので!
リクエストありがとうございました!
これからもどうぞよろしくお願いします。

2008.04.08