誰よりも愛しい貴方へ伝えたい言葉
広大な屋敷の一角にあるとても広い中庭。
様々な花が咲き誇るここは屋敷の中でもお気に入りの場所。
その中を温かな陽射しを浴びながらゆっくりと歩く。
時折優しく吹き抜ける風が運んでくる春の香りに自然と口元も緩む。
こうやって陽の光を浴びるのは何日ぶりだろう。
ここ数日少し体調を崩してしまい、ずっと部屋に篭りきりだったから、こうして外の空気を直接感じることが出来なかった。
やっぱり新鮮な空気に直接触れるのは気持ちがいい。
立ち止まり見上げた空は蒼く、どこまでも広がっていて、眩しさに目を細める。
その中を泳ぐたった一つの雲にあの人の影が重なる。
あの雲のように風に乗ってあの人のところに行けたら。
そう何度願っただろう。
でもその願いが叶わないことを知っている。
それを選んだのは他でもない自分自身なのだから。
イタリアにあるボンゴレ本部。
ここに来てからの数ヶ月、屋敷の敷地から出たことはほとんど無い。
出ないのではなく、出ることが出来ないと言ったほうが正しいのかもしれないけど。
まるで鳥籠の中の鳥のようだ。
自分の立場はよくわかっている。
仕方がないと分かってはいても、それでも時々寂しさを感じてしまう。
ボンゴレ最強の雲の守護者の妻
そして、ボンゴレ10代目の義妹
それがボンゴレに敵対するファミリーにとってどれだけ魅力的か、わからないほど馬鹿ではない。
イタリアに来てあの人と暮らし始めてから、今まで何度も敵対ファミリーに狙われた。
しかも幼い頃に殺し屋として裏社会に名が知られているため、強い殺し屋が来ることもあった。
それでもなんとか返り討ちにしてきたけど、今はきっと無理だ。
戦うことなんて出来ない。
このままではただの足手まとい。
だから沢田さんから話があったとき、それを受け入れたのだ。
「雲雀さんがいない間だけでも、ボンゴレ本部で暮らさない?」
そう、言われた。
それは義妹を心配しての『提案』。
そしてファミリーを余計な危機に巻き込まないための部下への『命令』。
あの人がいればそんな心配もしなくてよかったが、タイミング悪く長期任務で海外へと行った直後だった。
つらつらと過去の記憶を辿っていたら、不意に視界が真っ暗になり、地面がぐらりと揺れた。
いや、揺れたのは地面ではなく自分自身。
身体が傾くのが分かったけど、視界が戻った時には既に地面は目前に迫っていて、上手く動かない頭と身体では受身さえ取れない。
襲い来るであろう衝撃に、無意識にぎゅっと目をつぶりお腹を庇う。
ふわり
いつまでたっても予想していた衝撃は来ず、かわりに感じたのは腰に回された温かく優しい温もり。
目を開き、誰かが支えてくれたのだと気づく。
「恭弥さん!?」
振り返り支えてくれた相手の顔を見て思わず声が出た。
目の前にいるのは数ヶ月ぶりに会う最愛の人。
本当なら喜ぶべきなのだろうけど、それよりも先に疑問が浮かぶ。
確か彼が戻ってくるのは早くてもあと一ヶ月先だったはずだ。
「いつ戻ってきたんですか!?」
「ついさっき。それよりなんで君がここにいるわけ?」
その言葉に思わず肩が震える。
心なしか眉間の皺が多いのはきっと気のせいではない。
いつものような淡々とした声も若干低く、どう考えても今の彼は不機嫌だ。
彼にはここで暮らしてることを伝えていなかった。
彼が戻ってくるのは予定ではもっと後だと聞いていたから余計な心配をかけたくなかったし、
伝えたら彼はきっと任務を放り出して戻ってくるだろうと簡単に想像できた。
彼は私にだけは甘いから。
それではみんなに迷惑をかけてしまう。
だから彼にだけはばれないように細心の注意を払っていたというのに。
どうやら裏目に出てしまったみたいだ。
「えっと、あの、ですね…」
どう言えばいいのか、口篭る私を半ば睨むように見ていた彼の視線がふとある一点で止まった。
瑪瑙のような漆黒の瞳が、珍しく驚きの色を浮かべている。
滅多に見れない彼の様子に首を傾げたが、彼が何を見ているのかに気がついて、一気に顔に熱が集まる。
「あっ、あの……」
「イーピン?」
慌てる私にかけられた、問いかけるというよりも確認するような声音。
深く心に染み渡るような優しい声に、動揺していた心がすぅーっと落ち着いていく。
言うなら、今しかない。
一度目を閉じて大きく息を吐く。
そして少し上にある彼の漆黒の瞳をじっと見上げ、口を開く。
「恭弥さん」
「うん」
一言一言、慎重に言葉を紡ぐ。
「私、赤ちゃん出来ました」
「そう」
彼の視線の先にある、最近少し目立ちはじめた私のお腹。
以前よりも丸みを帯びたそこには、とても大切な存在がいる。
私と彼の愛の結晶とも呼べる、本当に大切な存在が。
「私と、恭弥さんの子供です」
「だろうね」
淡々と返される言葉。
唇をぎゅっと噛み締めて、どうしても伝えなくてはいけない言葉を絞り出す。
知らず知らずのうちに手をぎゅっと握り締める。
「…産んでも……いい、ですか?」
握り締めた手に無意識に力がこもる。
彼の瞳から目を逸らすことなく、じっとその答えを待つ。
ほんの数秒のはずなのに、彼の答えが紡がれるまでの時間がとても長く感じる。
「もちろん」
躊躇いなく出された答え。
その声音に含まる優しさ。
当たり前だと微笑む彼に、どうしても瞳が潤み、視界がぼやける。
眦から一粒の涙が頬を伝っていく。
それを合図に止め処なく溢れる涙を止めることなんて出来なくて、
両手で涙に濡れる顔を覆い隠した。
なんとか涙を止めようと思ったら、不意にふわりと温かな腕に包まれ、優しく頭を撫でられる。
ゆっくりと、まるで子供をあやすかのように。
ああ、なんで彼はこうも私に甘いのだろう。
私の望むことをいつだってわかってくれる。
いつだって私の心は彼に見透かされていて、きっと私が今なぜ泣いているのかも彼はわかっているのだろう。
言葉では何も言わなくても、彼の手のひらから伝わる温もりがそれを物語っている。
怖かったのだ
彼に拒まれることが
寂しかったのだ
彼が傍にいないことが
不安だったのだ
私に彼の子供を産む資格があるのか
考えれば考えるほど思考は暗い方向へと進んでいって。
泣きたくて、でも泣いてしまったら皆に余計な心配をかけるから泣けなくて。
溢れそうになる感情から目を逸らしてきた。
でも彼を前にすれば、それは無意味に終わるのだ。
溢れ出た感情は、雫となって彼のシャツに染み込んでいく。
私の恐怖も、寂しさも、不安も、全て受け入れるかのように。
次々に彼に吸い込まれていく。
未だ溢れる涙そのままに彼の胸に顔を埋める。
彼のシャツをぎゅっと握り締めれば、よりいっそう感じる彼の温もりと鼓動。
それは言葉では足りないほどの幸せをくれる。
どれくらいそうしていただろう。
零れ落ちる涙も大分落ち着いてきたので、
少し寂しく思いながらも彼の胸から顔を離し、彼を見上げる。
シャツを握り締めた手はそのままに。
「恭弥さん」
「何?」
「ありがとうございます」
その一言に、ありったけの想いを込めて。
ありがとう
受け入れてくれて
ありがとう
傍にいてくれて
ありがとう
私を認めてくれて
本当に、ありがとう
返事の代わりに唇に柔らかな感触が落とされた。
END
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☆携帯サイト一周年フリリク企画☆
奏芽様からのリク『イーピンに甘甘な雲雀』だったんですが……全然リクに沿えて無いですね…orz
奏芽様、お待たせした上に力不足で本当に申し訳ないですm(_ _)m
返品、苦情、修正は24時間受け付けておりますので。
リクありがとうございました。
よろしければまた遊びに来てやってください。
こちらは奏芽様のみお持ち帰り可です。
2008.11.03