最期の温もり


「僕はさ、君の笑ってる顔が好きなんだ」

今にも消え入りそうなか細い声で紡がれる言葉を一言も聞き漏らさないように身をのりだして顔を近づける。
すぐ近くにある彼の顔は恐ろしく白くて。
別れがもうすぐそこまで来てるのだと、それを嫌でも見せ付ける。

「だから、最期に見るのは君の笑顔がいいんだけど」

無理っぽいかな、そう言って少しだけ困ったように微笑む彼の頬を、溢れる涙が零れ落ちて濡らしてゆく。

彼の顔をしっかりと心に焼き付けておきたいのに、視界を滲ませて涙がそれを許してくれない。

ゆっくりと頬に伸ばされた手にそっと両手を重ねる。
細く、ひんやりとしたその手が涙を拭うように動くけれど、その行為に更に涙が溢れるのを止められない。
ずっと私を護ってくれていた彼の手はいつからこんなに細くなったのか。

「……っ」

言いたい事はたくさんあるのに、胸が押しつぶされそうなほどに苦しくて声を出すことが出来ない。
口を開けば、零れるのは涙と嗚咽だけ。
彼の名前を呼ぶことさえ出来ない自分はなんて弱いのだろう。

「千鶴」

名前を呼ぶ優しい声と重ねた手に込められた僅かの力。
それに引き寄せられるように顔を寄せて



唇に感じた微かな温もりを残して彼はいなくなった。




(終)


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以前日記に載せた小話を若干加筆修正してUPしてみました。
沖千はこういうネタばかり浮かぶからほんと困る(*´v`*)
たまには甘いのも書きたいよねー。

2009.08.24