変わらない居場所が




何度も夢を見ていた。この日が来るのを、何度も何度も、夢に見た。想い描いてた。
会いたいと思う気持ちを、ぐっと押さえ込んで。泣かないように、息を吐いて。耐えてきた。
旅をしている時は、一日一日が早く過ぎすぎて、駆け巡っていたのに。
きっと、あの一日一日は。つらいことも、あったけど。楽しいことも、沢山あったから早く過ぎていたのかも、しれない。
待つだけの時間は、早く過ぎてはくれなかった。百年という時は、あまりにも長かった。
早くその日が来て欲しくて、まだ日が昇っている時間帯から、ベッドに潜ってみたこともあった。
思い返す思い出は、喧嘩したことばかり。それなのに、どこか。愛おしくて。目を閉じたら、蘇る。
昨日はあまり眠れなかった。そんな自分に、少し。笑った。どれだけ、楽しみにしてるんだろう。
あっちにとっては、たった一瞬のこと。でも、こっちにしてみれば、長い長い、歳月。
何を言おう。どんな言葉を、かけよう。考えても考えても、どれがいいのか、決められないまま。

踏み入れた村は、お世辞にも綺麗な村とは言えない。惨劇がそのままになっている、村。
それでも、踏み締める度に。ここでアイツが育ったのかと思うと、なんとなく。愛しく思えた。
ここには、近寄ることはなかった。来ようと思えば、いつでも会いに来れたけど、そうはしなかった。
自分を知らないアイツに会うのが、怖かった。自分の知らない、世界を生きている姿を、見たくなくて。
本当は、迎えに来てくれるのを待とうかとも思った。でも、それはできなかった。これ以上、待っていられなくて。
来てくれるのかもわからない人を待てるほど、気長に待っていられるほど、強くない。
帰って来る日。未来からの冒険を終えて、みんながここに。今日、帰ってきているはず。


「…アーチェ?」

木々が、風が、花が。村の全てを司る、ものをただ、見ていたら。突然聞こえた、懐かしい声。
驚いたような、顔で。こっちを見ている。その瞳に、確かに今。自分が、映ってる。
会いたくて、ここまできたのに。いざ、会ってしまうと、何も言えない。チェスターが目の前にいるのに、何も。
それどころか、面と向かい合うことすら。急に、怖くなる。どう、思われるのか。知りたくなくて。
握り締めていたはずの箒は、思わず手離してしまった。会えたことが、あまりにも嬉しいと思っている、自分に驚いて。
言いたいことは、沢山あった。いつまで待たせてんのよ、とか。ばかとか、あほとか。悪口ばっかり考えてた。
だけど、もっと。言いたいことは、それ以外にもあった。素直に言えるほど、大人にはなれなかったけど。
どんなに月日が流れたって、言えないものは言えない。会いたかったなんて。会いたくて、泣いてたなんて。

村の外に向かって、思いっきり走り出したら。後ろから追いかけてくる足音と、声が聞こえた。
アーチェ、と名前を呼ぶ声が懐かしくて。耳に届く、その必死な。少し怒ったような声が、嬉しくて。
わかってくれたこと。百年経った、あたしでも気付いてくれたこと。変わらずに、呼んでくれたこと。
あっちにしてみれば、そんなに時間は流れていないのだから、当たり前なのかもしれないけど。それでも、嬉しかった。


「っ、」
「…っ、何で逃げ、るんだよ」


二人揃っての全力疾走も、結局。チェスターに腕を掴まれて、終わる。チェスターの顔はまだ、見れない。
だから、俯いてその声を聞いた。答えを求めている、その声を。身体中に響く、声を。
掴まれた腕から、温かさを感じる。人に触れられること自体、ひどく久しぶりで、懐かしかった。
悔しかった。懐かしいと思ってるのも、こんなふうに、会いたくて必死になっていたのも、自分だけ、だから。


「…アーチェ、何だよな?」


答えられなかった。答えてしまったら、確実に。気持ちが全て、溢れてしまうと思ったから。
会いたくて仕方なかったことも。どうしてこんなに、会いたかったのかも。嬉しいことも、悲しいことも。
目を閉じていても、目の奥が熱いのがわかる。熱くて、少し、痛かった。胸も、ちくりと痛んでた。
泣きたくないのに。泣きたい、わけじゃなかったのに。前みたいにただ、喧嘩して。笑い合いたかった、だけなのに。
"このアーチェ様を待たせるなんて、いい度胸ね?" それぐらいのこと、言えたら良かったのに。
大丈夫か、と言われた瞬間。問われた、瞬間。何かが弾けたように、心が揺れた。
きっ、と睨むように見上げたら、チェスターがそこにはいて。視界に映る世界は、滲んでよく見えない。


「だ、じょぶなわけ…、な、いでしょ!」
「アーチェ?」
「ひ、とが…どれだけ、待、たと…!」


叫んだ。思いっきり叫んで、思いっきり泣いて。思いっきり胸元を叩いてやった。
百年なんてすぐ。そう、思ってた。思ってたから、大丈夫だと信じてた。でも、それは間違いだった。
喧嘩すること。話をすること。戦うこと。どれをとっても、一人じゃなにも、できなくて。
いないと気付く度に、どうしてと。悲しくて、せつなくて。勝手に泣きそうになってたけど、我慢した。
我慢してきたから、溢れて零れた。待ってたこと。会いたかったこと。気持ちが全部、混ざり合って。涙になって。
ばかと叫んだところで、悪いのはチェスターじゃないんだけど。生きる時代が、違ってしまったのだから、仕方ないんだけど。
それでも、何かを叫んでいなければ心を保てそうに、なくて。会いたかったと言えるほど、素直にはなれない。


「…待たせて、悪かった」
「…、え?」
「…っ、なんでもない!」


"待たせて悪かった"なんて。まるで、あたしが待っていると思っていなかった、みたいにチェスターは言う。
それは、少しだけでも。あたしに会いたかったと、会えてよかったと思ってくれてると、勘違いしてもいいの?
先に行こうとする、チェスターは耳まで真っ赤に染め上げて。あたしに背中を向けている。
その背中を見て、あぁやっと会えたんだと、実感して。嬉しくてまた、涙が出そうになるのは、堪えて。
いつもの調子が、返って来る。ここにある居場所を、感じる。その隣に、いてもいいんだと思える。
追いついて、思いっきりその腕に抱きついたら、焦ったように怒ったように。チェスターは、何だよ!と言う。
ひどく懐かしい感覚に、酔い痴れて。照れてる照れてる、と。あの旅の時と同じように、満足しながら言えば、すぐに。
離せ、嫌だ、離せ、嫌だ。そんなふうな、他愛もない言い争い。それすら、楽しい。
視界は少しだけ、まだ。涙で滲んでいるのに、たった一言で。心の靄とか不安は、全部吹っ飛んでしまった。
会いたかったと、会えてよかったと。素直に言ってくれないなら、あたしも言わない。言えない。
それでも、百年なんてあっと言う間だったよ、と。そう思わせてくれるほどに、これから楽しいことが沢山、あればいいから。


変わらない居場所が、
(君の隣に、確かにあるから)








END
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尊敬するロイコレサイトさんからリク小説を頂いてきました(*´q`*)ノシ
8万打おめでとうございました!!!
素敵すぎるチェスアーに携帯を握り締めてニヤニヤしてましたvvv
本当にありがとうございましたああああああああああ!!!

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『3時のおやつ、1分前』

2009.9.3