穏やかな昼下がり。
連日降り続いた雨も昨夜には止んで、数日ぶりに太陽が顔を出している。
晩秋のせいか、換気のためと少しだけ開けた窓から時折吹き込む風は肌寒い。
この部屋の住人であるイーピンは自分のベッドに横になり寝息をたてている雲雀を起こさないよう、
その身体にそっと毛布をかけてやり、すぐ隣に腰を下ろして読みかけていた本を手に取り読み始めた。
しばらくの間、雲雀の寝息とイーピンのページをめくる音だけが室内に響いた。
「そういえば、何が欲しい?」
読書に夢中になっていたイーピンが急にかけられた言葉に大きな瞳をきょとんとさせて雲雀の方に顔を向ければ、
いつの間に目を覚ましたのか雲雀が上半身をベッドから起こし、イーピンを見ていた。
「あっ、目が覚めたんですね」
「まあね」
まだ眠いのか、雲雀の口からは欠伸が出ている。
雲雀のそんな無防備な様子を見てイーピンは思わず笑みが浮かぶ。
「で、欲しい物はないの?」
「欲しいもの・・・・・・ですか?」
雲雀はにこにこと自分を見ているイーピンにもう一度問いかける。
開口一番、なぜそんなことを聞くのだろうか。
ぱちぱちと瞬きをし、小さく首を傾げるイーピンに、雲雀は僅かに眉を顰め前髪をかきあげる。
「君、来週誕生日だったと思うんだけど」
「たん、じょうび・・・」
雲雀の言葉を口の中で反芻した後、イーピンの表情がぱぁっと明るくなる。
そして読んでいた本をベッドに投げだし、雲雀の方に体を乗り出した。
「覚えててくれたんですか!?」
「一応恋人の誕生日だし、それくらいはね」
恋人、という言葉が雲雀の口から出た瞬間、イーピンは嬉しそうにはにかんだ。
幼い頃からずっと雲雀のことを想ってきたイーピンにとって、こうして雲雀の恋人になれたことがまるで夢のようで。
それを肯定する言葉が雲雀の口から出ることが幸せで堪らない。
しかも自分の誕生日さえ興味がないと覚えていない雲雀が、自分の誕生日を覚えてくれているなんて思ってもみなかったから、
余計に嬉しくて頬が緩むのを止められない。
「それで?何が欲しいの」
今まで女の子どころか他人に贈り物などしたこともない雲雀にとって、イーピンの欲しい物なんてわかるはずもなく。
本人に聞いた方が手っとり早い、そう思って口にした。
イーピンは少しだけ逡巡していたが、やがて上目遣いに雲雀を見上げてきた。
その頬がうっすらと朱に染まる。
「えっと、じゃあ・・・誕生日の日はできるだけでいいので一緒にいてくれませんか」
小さく首を傾げて遠慮がちの小さな声で呟くイーピンに、今度は雲雀が僅かに困惑する。
「それだけ?他に欲しいものとかないの?」
「はい。雲雀さんが一緒にいてくれるんなら、私にとってそれは間違いなく最高のプレゼントですから」
照れくさそうにしながらも真っ直ぐ見つめてくるイーピンにしばし言葉を失うが、やがて口端をあげてそっと瞳を和らげる。
「・・・・・・君って本当に欲がない」
「そんなことありません」
イーピンは雲雀の言葉に小さく首を横に振り、ベッドの上にある雲雀の右手を両手でそっと握った。
「雲雀さんの大事な時間を私と一緒に過ごしてもらうんです。これ以上の贅沢はありませんよ」
一緒にいてくれればそれだけで幸せです、といっさいの曇りのない瞳が雲雀に向けられる。
その瞳に呼び起こされ、心の奥から込み上げる感情の正体を雲雀はまだ知らない。
それでもその感情をもたらすのはイーピンだけ、そう思えば不快に感じることはなかった。
馬鹿だね、雲雀がそう囁いてその細い身体を引き寄せてその腕の中に閉じこめれば、
まだ慣れることのできない温もりにイーピンの心臓が高鳴る。
抱きしめたまま雲雀が額に軽く口づけを落とすとイーピンの顔がさらに赤みをおび、
次の瞬間には本当に幸せそうにえへへと笑った。
望むのはたった
一つ
の
END
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Buon Compleanno☆イーピン
付き合って初めてのピンの誕生日をイメージして書いてみました。
ピンってあんまり物欲とかも無くて、雲雀さえいればそれでいいんじゃないかと。
きっと雲雀は誕生日当日に学校を休ませて一日中一緒にいると思います(笑)
配布終了しました。
2009.11.25