「おめでとう、イーピン」
「イーピンちゃん、おめでとう」
「おめでとうございます」
「おめでとー」

笑顔と共に贈られる祝福の言葉。 それはどんなプレゼントよりも心を温かくしてくれた。

「ありがとうございます」

けれど、その中に『彼』はいなかった。




「あと、15分か…」

イーピンは壁に飾ってある時計を見ながら誰にともなく小さく呟いた。 今、近くには誰もいない。 それも当然で、ここはイーピンが一人暮らしをしている部屋。

時刻は現在23時45分。 日付があと少しで変わる。

普段なら既に寝ている時間だけど、今日は寝る気になれずぼうっと夜空を眺めていた。 漆黒の夜空を彩る月と様々な光を放つ星。 どこまでも続く空を窓辺に立って眺める。 寝付けない理由をイーピンはなんとなく自覚していた。

「やっぱり、ダメかな」

イーピンはどこか諦めたようにため息をこぼす。 右手に握り締めた携帯を見ても、着信もメールもない。 無駄だとわかっていたのに何かを期待していた自分がいて。 そんな自分に呆れてしまう。

「沢田さんも、無理だって言ってたし……」

すまなさそうに微笑んだ兄とも言える人の顔を思い出す。

「…でも、少しくらい連絡してくれたっていいのに……」

今日は誕生日なんですよ……、そう消え入るような声で呟いた。




今日はイーピンの16歳の誕生日。 ボンゴレの並盛地下アジトで開かれた誕生日パーティには、 ボンゴレ守護者や京子、ハル、フゥ太、ビアンキ、ディーノなど最近ではあまり会えない人達までもが集まり、 イーピンの誕生日を祝った。 色鮮やかな花束や、綺麗にデコレーションされたケーキ。 心のこもったプレゼントの数々と祝福の言葉。 イーピンにとってはとても幸せな時間だった。

けれどその中にイーピンの恋人である雲雀はいなかった。 元々群れることを嫌う雲雀がパーティーに顔を出すことは稀だが、 今回はイーピンが以前から頼み込んで出席の予定だった。 しかし、パーティー会場に雲雀の姿は無かった。 ツナの話では、雲雀に任務を頼んだエリアで何かトラブルがあったらしく、 任務が長引いているらしい。 本当にごめん、と謝るツナに、任務なら仕方ないですよとイーピンは微笑んで答えた。

そう、仕方ないのだ。 裏社会で生きる以上、与えられる任務は最後まで果たさなくてはいけない。 守護者という立場にいる雲雀でもそれは変わらず、 恋人の誕生日だからと任務を途中で放っていいはずがない。 ツナにしてみても、ボスとしての立場からパーティのために戻って来いとは言えない。 幼い頃から裏社会で生きてきたイーピンはそれを知っているから、 任務を投げ出してまでパーティに来て欲しいとは思わない。



けれど

「……声だけでも聞きたかったなぁ………」

そう思わずにはいられない。 だって今日は自分にとって大切な日。 できるなら会いたかったけど、それが叶わないならせめて声だけでも。 そう思うのは我が儘なのだろうか。


冷たい風が窓から吹き込む。 冬も間近のこの季節、夜風はとても冷たくて身体をどんどん冷やしていく。 イーピンは諦めるようにもう一度だけ携帯を見てため息を吐くと、窓を閉めるため手を伸ばした。 けれどその手は窓枠に届く前にぴたりと止まった。

ミードーリータナービクーナーミーモーリノー

イーピンの耳に微かに歌が聞こえる。 その歌をイーピンが聞き間違うはずはない。 雲雀が何よりも愛している、雲雀の母校の校歌。 その歌はどんどん大きくなっていく。 そしてそれと共に視界に映る黄色。 それがなんなのかわかるのにそう時間は要らなかった。

「ヒバード!?」

軽やかに飛びながら向かってくるヒバードに、 驚きに目を見開きながらもイーピンが手を伸ばせば、 ヒバードは頭の上を一周旋回してその手の上に降り立つ。

「どうしてヒバードが…?」

目を丸くしながら手の上で小さく鳴いているヒバードを見つめる。 ヒバードは雲雀が飼っている(本人はそう思ってないが)鳥で、よっぽどのことがない限り雲雀の側にいる。 なのに、何故。

もしかして―――。 そう思って窓から少し身を出し、辺りをキョロキョロと見回してみるが、 どこにも期待している相手の姿は無かった。

「もしかしたらって思ったんだけどな」

ヒバードがいるなら雲雀もいるかもしれない。 そんな期待を少しでも抱いたことに呆れてしまい、自嘲気味に笑う。

ふと見るとヒバードの足に何かが結びつけられているのに気づく。 イーピンは首を傾げながら空いている方の手でそれを解いた。 どうやらメモのようだ。 小さく折りたたまれたそれを広げて、書かれている文字を声に出して読んでみた。

「「Buon Compleanno」」

自分のものではない声が重なる。 驚きにイーピンの肩がビクッと跳ね、 弾かれたように振り返る。 その瞳が大きく見開かれた。 部屋の入り口にいたのは―――

「雲雀さん!」
「やあ」
「いっ、いっ、いつから……」
「ついさっき。普通に玄関から入ったけど、君が全く気づかないから」
「うそっ……」
「修行が足りないんじゃない?」

突然のことにパニックになるイーピンに、 雲雀は手に持った鍵を弄びながらどこか楽しげに答えた。 口をパクパクさせながら言葉もないイーピンだったが、あることに気づく。

「に、任務はどうしたんですか……っ!?」

そう、任務はどうしたのか。
ツナの話ではまだ掛かるはずだ。
だからこそ会うことを諦めていたのに。

「ああ、終わらせてきたよ。それで急いで戻ってきた」

さらりと答える雲雀。 嬉しさで涙が零れそうになるのを何とか堪える。 イーピンに近づきながら横目で時計を見て「何とか間に合ったみたいだね…」と呟く。 イーピンも慌てて時計を見れば、時計の針はあと数分で0時を指そうとしていた。

ぱさりと羽音をたて、開かれたままの窓からヒバードが飛び立つ。
その姿は小さくなってすぐに見えなくなった。

「Buon Compleanno」

雲雀はイーピンを抱きしめ、先ほどと同じ言葉を耳元でもう一度囁き、そっと唇を重ねる。 ゆっくりと唇を離し、抱きしめる手を緩めれば、頬を染めたイーピンの顔がそこにあって。 目が合うと照れたように笑うその姿を愛しいと思う。

「ありがとうございます」
「意味、わかるんだ」
「なんとなくですけど」

そう言いながらクスクスと笑う。

「プレゼント、急いで戻ってきて用意できてないから、明日一緒に買いに行こうか」
「いいですよ、そんな……っ!」
「ダメだよ、誕生日なんだから。何か欲しいものとかある?」

首と手を勢いよく横に振って否と答えるイーピンに苦笑しながら、その瞳をじっと見つめて問いかける。 イーピンはその言葉にぴたりと動きを止めて、恥ずかしそうに俯く。 両手を胸の前で組み、もじもじと「えっと…」や「あの…」と何か言いかけて口篭る。 それを何度も繰り返す。

俯いているため表情は見えないが、長い黒髪の間から見える耳は真っ赤で。 一体何をねだるのか、雲雀は少し楽しみになって知らず口元を緩め、イーピンの言葉を待った。

「あっ、あの……っ!」
「なに」

イーピンは雲雀のスーツをぎゅっと握り締め、上目遣いに雲雀を覗き込む。 その顔は見事なまでに真っ赤で、その瞳が雲雀のそれと合うと、ばっと再び顔を下ろしてしまった。 そして、小さな、本当に小さな声で何かを呟く。

「…………………して………です」
「……聞こえないんだけど」

あまりにも小さな声は、さすがの雲雀の耳にも届かず、聞き返される。 恥ずかしくて顔に熱が集まり、同じことを言うのを躊躇ってしまう。 でも、今一番欲しいものは間違いなくそれで。 言わなくてはこの願いは伝わらない。 ぎゅっと瞼を閉じ、勇気を振り絞って、再び言葉を紡ぐ。

「もう一回、キスしてほしいです……」

スーツを握る手に力がこもり、赤く染まった顔を隠すように雲雀の胸元に埋めるように押し付ける。 心臓が破裂しそうなほどバクバクと鳴っている。 手も微かに震えている気がする。

言ってしまった。 羞恥心が心を占める。 でも、紡いだ言葉は間違いなく本音で。 物を貰うことよりも、温もりを感じられることのほうが何倍も嬉しい。

「………君は、本当に……」

耳に届く、どこか呆れたような言葉。 でもその声音に込められているのは間違いなく優しさで。 抱きしめられている腕にぎゅっと力がこもり、頬に片手がそっと添えられる。 その手に導かれるように顔を上げれば、目を細め、優しく笑う雲雀の顔があって、胸がさらに高鳴る。

「本当に、そんなことでいいの……?」
「……はい」

花のように顔を綻ばせ、微笑むイーピン。 その姿は本当に幸せそうで。 そんなイーピンの様子に愛しさが溢れる。

少しずつ近づいてくる雲雀の顔に、イーピンはゆっくりと瞼を閉じる。 ほんの一瞬の距離なのに、とても長く感じる。 唇が重なる直前囁かれたのは


「愛してるよ」



心に響く優しい 温もり






あなたがいてくれればそれだけで幸せな気持ちになるんです




END
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Buon Compleanno イーピン!!!
いつものことながら雲雀さんが別人ですが、気にしないでやってください(=v=;)
期間中はお持ち帰り自由です。
配布期間:11/25〜12/5

2008.11/25



配布終了しました!