いつものように手際良く仕事を終わらせ、いつもの道のりを進み、自室へと続く戸をいつものように引いた。
そして自分を出迎えるのは別の基地とは雰囲気の違う、真っ暗で静まり返った和室。

の、筈だったのだ。いつもなら。




Children's Day






少し自分が引いただけの戸は、また違う別の力によって、半ば自動的に開かれた。
目の前に突如現れたのは、柔らかいの笑顔を浮かべた少女。
そしてその少女は、「お帰りなさい、雲雀さん!」と緩んだ目尻を更に引き、目を細めた。
「・・・イーピン。」
予想もしていなかった出来事に、一本取られたような気分になった。
仕事の性質上か、それとも生まれながらなのかは分からないが、気配を察することについては人並外れた技術を持っている筈の己ですら、ドア一枚隔てただけの場所に居た彼女に気づくことが出来なかったのだ。
やはり彼女も、過去のことながら“同業者”であり、しかもかなりの凄腕だったことがこんなところからも垣間見れる。

そんなことを考えていたからだろうか。
彼女はその場から動こうとしない僕に首を傾げて、腕部分のスーツの生地を軽く引きつつ早く部屋に入るようにと促した。
大人しくそれに従い、座敷へと上がる。完全に和風な空間の中、スーツ姿がやけに浮いていたが特に気にする理由も無い。
それに比べ彼女は、普段着る事の無い着物姿だった。この状態だけを見れば、おそらくどちらが此処に住んでいるのか見誤るだろうとすら思う。

まあ、それはそうと。
「どうしたの、突然。何かあった?」
そう率直な疑問を投げかける。ただ、それだけのことだったのに。
「えっ?」と、彼女は信じられないとでも言うように目をまあるくさせた。
でもそのあとすぐ、納得したように頷いて。まあ勝手に納得してもらっても困るんだけど。
「あ・・ちょっと待ってて下さいっ!」
彼女は思いついたようにそう言ったが早いか、とたとたと駆けて行った。
全く、ちゃんと僕に説明してくれないかな。

一分か二分程経っただろうか。彼女が戻って来た。見覚えの無い、綺麗に包装された箱を持って。
「はい、どうぞ!」にこにこと、彼女はその箱を僕へと差し出した。
「・・・ねえ。」そろそろ不愉快なんだけど。と、彼女に告げる。
今の状況を把握出来ていないなんて、もどかしくて仕方がない。
そんな僕を前にしても、彼女は口を割らず。そして、とにかく開けてみて下さい、と箱を僕の方へと寄せた。
眉根を寄せつつ、蝶々結びになったリボンを解いて、箱の蓋を開ける。
途端、甘い香りが鼻をついた。
瞬きを数回して彼女へと視線を向ければ、してやったりと言いたげな顔がそこにはあった。

「お誕生日おめでとうございます、雲雀さん!」
ぱちくり、という擬音が似合うような表情をしていたと思う。まあ自分が思うよりも無表情なのかもしれないが。
「そんなことのために、わざわざ来たっていうの。」
そう問えば、彼女はぶんぶんと首を振った。
「そんなことじゃありません!雲雀さんが生まれた日なんですよ?」
おめでとうございます、と言い掛けて、彼女は口を閉じた。
「それよりも、そうですね・・」


ありがとう、ございます。


そう言って、微笑んだ。

「お礼を言われる理由が見当たらないんだけど。」
無愛想にそう言っても彼女の和やかな表情は崩れず、これは流石だと言うべきなのかもしれない。
「だって、私は、」
雲雀さんが生まれて来てくれて、雲雀さんに出逢えて、本当に本当に良かったと思ってるんですよ、と。
さらりと口にした彼女は、やはり強者なのではないかと思う。
その言葉に、ふうん、とこれまた無愛想に応じるが、寄せていた眉根は元へ戻り、その上自然と目元が緩んだ。
滲み出た、自分には到底似合わないのであろう笑みを隠す理由もなく、そのまま彼女へと向ければ、彼女は頬を赤らめて視線を逸らした。

強かったり弱かったり、やはり彼女には興味が尽きない。



***



「雲雀さん、紅茶とコーヒー、どっちがいいですか?」
少し離れた台所―と言っても粗末なものなのだが―から聴こえた問いに、コーヒー、と短く答える。
数十秒後、かちゃかちゃと食器を鳴らして彼女がケーキと飲み物を運んできた。
彼女はぽすん、と僕の前に正座して、小さめのケーキを切り分ける。
「どうぞ。あまり甘くない筈、なんですけど・・・」
そう言って、ケーキを取り分けた皿をこちらへ寄せた。

ケーキを口に運び飲み込む間に、暫し無言が続く。

くすり、と彼女が笑った。あまりにも突拍子無く。
「何。」
「あ、いえ、良く考えてみたら雲雀さんの誕生日って“子供の日”なんだよなぁ、って。」
そう言って、なおも可笑しそうに笑う。
「似合わない、って。言いたいの?」
そんな彼女に少し、意地悪をしてやろうか、と。

「僕は存外子供だよ。独占欲の強い、子供。」
呆気にとられたようにこちらを見つめる彼女に向かって、くすりと微笑を返す。
そして、彼女の口元に付いたクリームを、ぺろり、と舐めた。

「ひっひばりさ・・っ・!」
急激に濃い赤へと変わっていく彼女の顔。
「子供だから、ね。君は僕から離れたりしちゃ駄目だよ。」
再度微笑を向ける。今度は、もっと柔らかな笑みを。

そしてそれを受けとった彼女は、
「離れろって言われても、離れませんよ・・?」
と、お返しとばかりに赤い顔で笑みを浮かべ、付け足した。


「だって、私も子供ですから。」








(もしかすると、僕等を繋ぐのはあまりに子供じみた独占欲。)




END




夜霧さんのところから強奪してきた雲雀誕生日フリー小説!!!
見た瞬間思わず叫んだよvvv
いちゃついてる二人が大好き(*´▽`*)
やっちゃん、素敵小説をありがと〜vvv
夜霧様のサイトへはこちらから『月灯』
2008.01.06