「早く帰ってきてくださいね」
少し揺れる瞳に見送られ、任務に出たのは数日前のこと。
別に任務の内容が難しいものだったわけでもない。
それは彼女も知っているはずなのに。
めったに紡がれることの無い彼女のささやかな願い。
その言葉が何を意味していたのか結局わからず、ただ彼女の不安そうな顔が脳裏を掠める。
いつまでも共に
頬を掠める冷たい夜風。
薄闇に浮かぶ十六夜の月。
微かに聞こえる鳥の羽ばたき。
もう少しで今日が終わり、明日になる。
それらを身体で感じながら雲雀はドアに手をかけた。
物音一つしない家の中。
まっすぐと寝室へと向かう雲雀だったが、不意にその足を止めた。
ある部屋からぼんやりと漏れ出る淡い光。
真っ暗な家の中でただそこだけが別世界のように異彩を放つ。
気配を消し部屋の中に足を踏み入れる雲雀。
室内を見渡すが、その動きがある一点で止まった。
カレンダーに付けられた赤い丸印。
その下に綴られた小さな文字。
そこで初めて雲雀は先日のイーピンの言葉の意味を理解した。
(そういえばもうそんな時期だったっけ)
テーブルの上に置かれた料理の数々。
華やかに飾られた花。
そして
顔を伏せ眠るイーピン。
室内に静かに響く小さな寝息に雲雀は溜息を零すと、イーピンの傍に歩み寄った。
動きやすいようにと普段纏められている漆黒の髪は下ろされ、その顔を隠すように覆う。
雲雀はその髪にそっと指を絡ませ、隠されているイーピンの顔を露わにした。
閉じられた大きな瞳。
寝息をこぼす小さな唇。
そのあどけない寝顔はどこからどう見ても普通の少女で。
その手がすでに紅く染まっているなんて一体誰が思うだろうか。
雲雀がそっとその頬に手を伸ばせば、イーピンはくすぐったそうに身じろぐ。
その様子を愛しそうに見ていた雲雀だが、ピタッとその手の動きが止まった。
閉じられた目尻から伝う一滴の涙。
そして
「…きょ…やさ……」
紡がれた言葉は悲しげな響きを伴って室内に広がる。
雲雀にとって今日という日は大した意味など無い。
学生時代は学校が休みになるという理由だけで覚えていただけ。
生まれた日を祝う必要なんてどこにも無くて。
だけど、それをイーピンに言えば
「ダメです!ちゃんとお祝いしましょう。
だって誕生日はその人が生まれてきたことを感謝する日なんですから。
雲雀さんが生まれて来てくれなかったら……こんな風に一緒にいることも出来ないんですよ?
だからちゃんとお祝いしましょう」
そう言って、毎年雲雀の家に来て二人で過ごしてきた。
だからイーピンは言ったのだろう。
任務だから行かないで欲しいとは言えなくて、けれどどうしても一緒に過ごしたくて。
雲雀が帰ってくることをただ願いながら。
雲雀は重くため息を吐く。
どうして気づいてやれなかったのか。
イーピンはきっと毎晩不安だったのだろう。
もしかしたら今日だけじゃなく、毎晩一人で泣いていたのかもしれない。
そう思うと後悔してもしきれなくて。
「…ん……っ」
その時閉ざされていた瞼がゆっくりと開かれた。
顔を上げるが、まだ寝ぼけているのか視界が上手く定まらずにぼーっと辺りを見回す。
そしてその視界に雲雀が入る。
「やあ」
「…?」
「…」
「…」
「…」
「えええええええええええええ!きょ、恭弥さん!?い、いつ帰ってきたんですか!!!」
がたがたっ
椅子を蹴飛ばし立ち上がるイーピン。
驚きで口をパクパクさせ慌てるイーピンに「ついさっきだけど?」とさらりと返す雲雀。
そして、イーピンを優しく抱きしめる。
「きょ、恭弥さん!?」
「…遅くなってごめん」
腕の中であたふたするイーピンの耳元で呟けば、その意味が分かったのか肩がぴくっと跳ね上がった。
雲雀の服をぎゅっと掴み、その胸に顔を埋める。
「…帰ってこないかと思ったんですよ?」
「うん」
「もしかしたら忘れてるんじゃないかって」
「うん」
「せっかくハンバーグも作ったのに」
「うん」
「…ケーキだって作って…」
「ごめん」
徐々に力を失う声と、その瞳から零れ落ちる涙。
その全てを受け止めるように雲雀はイーピンを抱きしめた。
「恭弥さん…」
「うん」
雲雀を見上げるイーピンの瞳はどこまでも澄んでいて
「お誕生日おめでとうございます」
その笑顔は太陽のように眩しい。
二人の唇はゆっくりと重なった。
君が傍にいる
それこそが最高のプレゼント
END
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HAPPY BIRTHDAY☆雲雀 恭弥様!!
なんとか間に合った…。
内容グダグダで全然祝えてないですが、読んで下さってありがとうございました^^
期間中はお持ち帰り自由です。
配布期間:5/5〜5/14
2008.05.05
配布終了しました!