鳥や虫さえも寝静まり、静寂と暗闇に包まれた深夜。 その静寂の中、雲雀は椅子に腰を下ろし本を読んでいた。 室内に響くのは本を捲る微かな音だけ。 その音が不意にぴたりと止む。 書類に向けられていた目がすぅっと細められ、その視線が入り口にあるドアを見据えた。

(……侵入者、かな?)

僅かだが何者かが廊下を進む気配がする。 物音一つたてず、ゆっくりと、だが確実にこの部屋に近づいてきて。 部屋の前まで来るとそのまま動かなくなる。 中の様子を探ってるのか、気配はしばらく動かない。 雲雀はすぐ傍に置いてある愛用のトンファーに手を伸ばすが、ふとその気配が覚えのあるものだと気づきその手を止めた。 それと時を同じくして、遠慮がちに叩かれたノックの音が静かな室内に響いた。

「雲雀さん………あの…入ってもいいですか?」

ノックの後に聞こえてきたのは、ノックと同じように遠慮がちに紡がれた鈴のような少女の声。 少し震えているその声は、小さくとも雲雀の耳にしっかりと届いて。 一度目を伏せた後、そっと息を吐いて椅子から立ち上がり、扉へと向かう。

静かにドアを開ければ、両手を胸の前で握り締め、俯いているイーピンがそこにいた。 おそらく先ほどまで寝ていたのだろう。 イーピンの服装はどう見てもパジャマと呼ぶべきもので、普段は纏められている長い黒髪も下ろされ、小さな背中を覆っている。 俯いているためその表情は雲雀からは見えないが、それでも何かあったのだろうと予想はつく。 普段のイーピンならこんな格好で雲雀の部屋に来ることはない。

「どうしたの」

とりあえずイーピンを部屋の中へ入れ、ドアを閉める。 そのままベッドに腰を下ろさせると、雲雀もその隣に腰を下ろし優しい声音で尋ねた。 ゆるゆるとイーピンが雲雀の方に向く。

「こんな時間に迷惑ですよね。すみません……」
「別にいいよ」

謝罪の言葉を口にするイーピンの頭を軽く撫でる。 その漆黒の瞳は今にも泣き出しそうなほどに潤んでいる。 いや、実際この部屋に来る前に泣いていたのだろう。 その頬には涙の伝った真新しい痕があった。 肩も小さく震えている。

「……ちょっと、嫌な夢を見たんです………」

今にも消え入りそうなほど小さな声で呟くイーピン。 雲雀を見つめるその瞳が悲しそうに歪む。 その瞳は未だ不安と恐怖の色を宿したままで。 雲雀は涙の痕にそっと手を伸ばし、そっとなぞる。 その頬は微かに濡れていて、熱を帯びたように熱い。

泣くのを必死に堪えている。 それが痛いほどに伝わってくる。

雲雀は少し眉を顰めると、イーピンの腕を軽く掴み自分の方に引き寄せた。 イーピンの小さな体が雲雀の腕の中にすっぽりと収まる。 突然のことに戸惑い体を強張らせるイーピン。 背中に回した腕に力を込めて、イーピンの頭をポンポンと軽く叩く。 そして、子供に言い聞かせるように優しく呟く。

「泣けばいい」
「……え」
「どんな夢を見たのかは知らないけど、泣きたいのなら泣けばいい。僕の前でまで我慢する必要はない」
「……っ………ひ、ばりさ…」

堰を切ったように漆黒の大きな瞳から涙が零れ落ち、雲雀のシャツに次々と染みこんでいくが、 雲雀はそれを気にも留めず、イーピンの背中をゆっくりと撫でる。 イーピンは縋りつくようにシャツをぎゅっと握り締め、震える声で、雲雀さんと繰り返し名を呼ぶ。

いなくならないで。 置いていかないで。 それは祈りにも似た懇願。 まるで親に捨てられた幼い子供のように泣きじゃくる。 雲雀はそんなイーピンの背中をただ何も言わずに撫で続けた。



やがて泣き疲れたのか腕の中で静かに寝息をたて始めたイーピンをそっと抱き上げ、そのままベッドに横にさせ布団を掛ける。 目に入るのは子供のようなあどけない寝顔。 その眦から乾ききれなかった涙がつぅと零れる。 その涙を指で拭い、眠るイーピンの耳元でそっと囁く。

「僕が君を置いていくはずがない」

それは誓いの言葉。 何があってもイーピンだけは手放さないと、どんな道も共に歩むとそう決めているから。
だから安心して眠ればいい。

違えることのない想いを込めて閉じられた瞼にそっと口付けを落とした。



瞼にお休みのキス



どうか今度は幸せな夢を



END
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この度は素敵なお祭開催おめでとうございます!
ヒバピン好きとしては主催者のお2人に感謝してもしきれません(*´∀`*)
そして参加許可までいただけるなんて……!
本当にありがとうございます!

それなのにお題に沿ってない上に暗い話になってしまい申し訳ないですっ。
ですがヒバピンへの愛だけはしっかりと込めたつもりです!!!
それでは、ありがとうございました。

こちらは『ヒバピン祭』に投稿させていただいた作品です。