勝負はほんの一瞬だった。

少女は開始の合図と共に殴りかかってきた男の懐にすばやく入り込み、鳩尾に肘鉄を叩き込む。 そのまま素早く身体を反転させ、今度はすぐ後ろに迫っていた男の顎を蹴り上げる。 そして呻き声を上げて崩れ落ちるその男の肩に両手を置き、体重を感じさせない動きでふわりと跳びあがると、その男の後ろにいた男の横っ面に勢いよく蹴りを決めた。 床に着地するのと同時にまた別の男から繰り出されたナイフを紙一重が避け、そのままの動きで男の腕を掴みあげて、一瞬怯んだ男の隙を見逃さず鳩尾に強烈な拳を叩き込んだ。

「勝負あり、かな」

次々と倒れていく男達を前に、それまで壁に寄りかかり状況を見ていた青年の口から苦笑いが零れる。 周囲にいる仲間たちも、驚愕や感嘆の表情を浮かべ少女を見ている。

少女の滑らかで素早い動きと、華奢な身体からは想像も出来ないほど強力で的確な打撃が、たった数秒で数人の男達をほとんどの反撃を許すことなく床に沈めた。 洗練された動きは舞でも舞うように美しく、一切の無駄がない。

青年達から少し離れた所では、同じように壁側に避けていた十名ほどの男達が皆一様に信じられないと驚愕の表情を浮かべ、汗一つかくことなく男達を倒した少女を凝視していた。

その様子を横目で見た青年は満足げに口元を緩めて、預けていた壁から身を起こし、部屋の中央で両手を合わせて礼をしている少女に近づいた。

「お疲れ様、イーピン」
「沢田さん」

手を上げて傍に寄れば、気づいたイーピンが笑顔と共に振り返る。 近くから見ても汗一つかくことなく、息も乱れていない。 ツナも笑顔で返しながらくるりと彼女の足元に伏している男達を眺めた。

「さすがだね」
「ありがとうございます」

でも本当によかったんですか、と同じように自分が倒した男達を移し瞳に少しの不安を滲ませながら問うイーピンに、ツナは気にしなくていいよと返し、壁側で未だに動けずにいる男達に視線を移した。



きっかけは数時間前。 正式にボンゴレ入りが決まったイーピンを、ボスであるツナは現在数の少ない女性幹部として取り立てることにした。 その待遇にイーピンの人柄や実力を知っている昔からの仲間達からは反対意見は出なかったが、 何も知らない一部の古参幹部から不満の声が上がった。

曰く、年端もいかないただの少女をいきなり幹部扱いするのはおかしい、と。

イーピンがツナの義妹であることは知られているため、ただの身内贔屓の人事ではないか。 そう意見するものがいたのだ。

ツナとしても彼らの意見がわからないではないが、この決定を譲る気もなく。 ならばと彼ら直属の部下とイーピンを手合わせさせてその実力を見てもらおうということになった。



「それにしても本当に強くなったね。俺も少し驚いたよ」
「そうですか?そう言ってもらえると嬉しいです」

ツナからの賞賛の言葉に頬をうっすらと染めて喜ぶイーピン。 その様子はごく普通の少女にしか見えない。 これで一流の殺し屋だったのだから驚きだ。 人は見かけによらないというのはこういうことを言うのだろう。

とは言ってもイーピンが殺し屋をしていたのは幼い頃のことで、殺し屋を辞めてからすでに数年経っている。 その間普通の少女として学校に通っていたのだから、その腕を実戦で使うことはほとんどなかったはずだ。 もちろん殺し屋を辞めた後も鍛錬を欠かしていなかったとは聞いていたが、それでもイーピンの実力はツナの予想を遥かに超えていた。

床に倒れている男達は古参幹部達がその腕に絶対の自信を持っている部下なのだ。 それを1分とかからずに、しかも無傷で倒してしまうとはまさかのツナでも思いもよらなかった。 いつの間にこんなにも強くなったのか。

「これくらいできて当然だよ」
「えっ」
「雲雀さん」

和やかに言葉を交わすツナとイーピンを遮るように静かな、だがとても迫力のある声が割り込んでくる。 その声に二人が振り返ると、先ほどまで一人離れた壁に身を預け見守っていたはずの雲雀がすぐ傍にやってきていた。

「僕が鍛錬に付き合ってあげてたんだ。こんな雑魚なんてイーピンの足下にも及ばないに決まってる」
「あ、雲雀さん!だめですよ、そんなことしちゃ」

足下に転がる男達を邪魔だと言わんばかりに蹴りとばす雲雀をイーピンが慌てて止める。 しかしツナはそんなことを気にもとめず、目を点にして目の前に並ぶ二人を交互に見ていた。

「雲雀さんがイーピンの鍛錬に付き合ってた・・・?」

寝耳に水とはこういうことを言うのか。 そんな話、ツナは聞いたことがない。 視線に気づいたイーピンが少し照れくさそうに微笑みながらも説明を始める。

「あ、はい。雲雀さんが、日本に戻って来る時には時間を見つけて鍛錬に付き合ってくださって」

おかげで随分と鍛えられました、とイーピンが雲雀の方に視線を向けるのでツナもそれにならって雲雀に視線を向けるが、雲雀はツナなどどうでもいいと言わんばかりに、イーピンに視線を返すだけだった。

雲雀のそんな態度には慣れているツナはそのことには文句も言わずに雲雀の方を見ながら思考を巡らせる。

イーピンが昔から雲雀を好きだったことは知っていたが、それはイーピンの片想いでしかないと、雲雀が幼かったイーピンに対して僅かだが優しかったのはたぶんイーピンの強さに対する興味だろう、ツナはそう思っていた。

だがこうして目の前で視線を交わしている二人はどう見ても恋人同士にしか見えない。 もちろん雲雀があからさまに甘い雰囲気を出しているわけではないが、それでもイーピンに向ける瞳はよく見れば他の誰に向けるものよりも優しい色を宿している。 雲雀がこんな瞳を誰かに向けるのをツナは見たことがなかった。

二人の関係についていろいろと聞きたいことはあるが、これ以上聞くのはなぜだか気が引けて。

結局のところ、雲雀の言動一つ一つに一喜一憂するイーピンは本当に幸せそうで、ツナにとってはイーピンが幸せでいてくれるのならとそれでいいのかもしれない。

「でもまあこれで彼らもイーピンの幹部就任に納得してくれるんじゃないかな」

この話はこれで終わりだとツナは話を本題に戻して、未だ壁側でざわついている幹部連中に視線をやれば、視線に気づいて一斉に静まる。 これで彼らもこの件に対して納得せざるを得ないだろう。

「これからよろしくね、イーピン」
「はい、お願いします」

イーピンは差し出された手に満面の笑みで応え、その手を何の躊躇いもなく取った。





Such a thing to wait for earlier







END
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久しぶりに書いたんですがむしろツナ+ピン(+雲雀)になってしまいました。
ヒバピン前提のツナ絡みが大好きなんです!!!
当サイトのツナはどこまでもシスコンです(笑)
ただ相変わらず甘さはどこにも無いです。
以前書いた『動き出した世界』と少しだけリンクしてます。
あれの続きみたいな感じで。
でもこれだけでも普通に読めると思います。

2009.11.12