私が私として産まれるずっと前。 動乱の世と呼ばれた時代に、私はここ、八木邸で日々を過ごしていた。 それは所謂前世というもので、私にはその遠い過去の記憶がある。

いつの頃からだったのかはもう覚えていないけれど、気がつけば時折見るようになった夢。 私によく似た面差しの少女が大勢の人たちに囲まれて笑い、泣き、時に悩み。 それでも懸命に生きていた。

初めの頃はその夢に意味があるだなんて思ってもなかったけれど、 それがただの夢ではなく、前世の記憶の断片だということに気づいたのはそれからしばらくして。 たまたまTVから聞こえた「新選組」という言葉に知らず涙が零れた時だった。

誠に生き、最後まで流されることなくその信念を貫いた新選組。 彼らと共に生きた日々は穏やかとは言い難いものだったけれど、それでも深く心に刻まれている。

そして、誰よりも愛した彼と過ごした幸福と思えた日々。 二人寄り添い、穏やかに時を重ねた。 彼のことを想うだけで胸がぎゅっと締め付けられる。

その穏やかな眼差しを。 私の名を呼ぶ優しい声音を。 慈しむように抱きしめてくれた逞しい腕を。 繋いだ手から伝わる温もりを。 思い出す度に彼への想いが今でも溢れそうになる。

遠い過去の全てを思い出しているわけじゃない。 不意に溢れ甦る遠い記憶を出来うる限り再び記憶しているだけ。 それでも彼が私にとってかけがえのない存在だったのだと胸を張って思える。

未完成のジグソーパズルのように所々欠けたこの記憶が満たされる日が来るのかなんてわからないけれど、 出来ることなら全てを思い出したいと願う。






どれくらいの時間そうして眺めていただろう。 腕時計に目をやればそろそろ薫との待ち合わせの時間が迫っている。 遅れれば薫は心配して探そうとするだろう。 薫には余計な心配をかけたくない。

ここに来れば彼らに、何よりも彼に再会できるんじゃないか、そう思って足を運んでみたけれど、 それは甘い考えだったのかもしれない。

また来よう、そう心に誓って仕方なく踵を返そうとしたその時、 辺りを一陣の風が通り抜け、道に降り積もっていた桜の花弁を吹き上げた。 はらはらと無数の花弁が世界を包み、雪のように降り注ぐ。 幻想的ともいえる景色に思わず見惚れる。

しかし――

「……千鶴、か?」

呼び止められて振り返り、その人物を瞳が捉えた瞬間、私の身体は全ての時間を止めた。

桜の花弁舞う中、佇む彼から目が離せない。

風に揺らぐ僅かに青みがかった髪。 困惑に見開かれた青の瞳。

私は彼を知っている。 間違えるはずなんてない。

「………斉藤、さん?」

私は絞り出すようにその人物の名を口にした。










〜続〜
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沖千転生パロ第二話。
遅くなりましたがUPできました。
今回は斎藤さん登場です。
この話を書こうと思った時から、一番に再会するのは斎藤さんだと決めてました。
沖千話なのにね。
早く再会させてあげたいです(笑)
それでは

2009.09.30