「千鶴、さっさとしないとおいて行くよ」
「すぐ行くからちょっと待って」

階下から聞こえるため息交じりの呼び声に、慌てて近くに置いてあったカーディガンに袖を通して、 机の上に準備してあったバッグを持って部屋を出る。 階段を少しだけ足早に、でも滑らないように気をつけて降りると、 そのまま玄関には向かわず、その手前にあるリビングの扉を開ける。 そこでは父様がソファに腰掛け、のんびりと新聞を読んでいた。

「それじゃあ父様、いってきます」
「気をつけて行くんだよ」

扉の側から声をかければ、父様はいつもの穏やかな笑みを浮べて送り出してくれる。 それに笑顔で答え、そのまま玄関に向かった。

「薫、ごめんね」
「遅いんだけど」

玄関に行けば、双子の兄――薫がすでに支度を終えて待っていた。 二卵性の双子なのに私と薫はそっくりで、鏡を見ているような気分になる。 母様譲りだという黒髪も瞳も本当に瓜二つ。 それは決して嫌なことではなく、私たちが兄妹である証。

薫は少し無愛想で冷たい印象を持たれがちだけど、家族のことをとても大切に思っている。 いつだって私や父様のことを考え、支えてくれる。 私はそんな薫が大好きだった。

待たせてしまったことを素直に謝れば、薫は仕方ないとばかりにため息を一つ吐いて苦笑する。 けれどその瞳は穏やかで、怒ってないことが伝わってくる。

「それじゃ、行こっ」

薫の手をとって玄関の扉に手を伸ばした。






桜の花弁が美しく舞い散る京都の町を眺めながら、のんびりと一人歩く。 春特有の暖かな風が花の香りを運んでいる。 すれ違う人々も笑顔が溢れ、美しい景色に心を弾ませている。

私たち家族はつい先日、父様の仕事の都合で生まれ育った土地を離れ、ここ、京都に引っ越してきた。 荷物の整理もある程度終わり、薫と共に足りないものなどを買うついでに近所を散策することになっていた。 先ほどまで薫と二人でいろいろと買い物をしていたけれど、今は一人。 薫にお願いして三十分だけと一人にしてもらったのは、どうしても行きたい場所があったから。

目的の場所に着くと、中に入ることはせず足を止めてその建物を外からじっと眺める。 胸に溢れる感情は郷愁か、それとも懐古か。 言葉に出来ない何かが心を締め付け、涙が零れそうになるのを必死に堪えた。

「懐かしいなぁ」

目的の場所、八木邸を前に、私は一人呟いた。











〜続〜
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沖千転生パロ第一話。
やっとUPできました。
雪村兄妹は何の障害もなく育ってたら仲良しでいたんじゃないか。
そう思ったらこんな感じになりました。
今回は誰とも再会してませんが、次回はあるお方が登場予定です。
なるべく早く続きを書きたいと思います。
それでは

2009.09.13