「ちょっと左手出しなよ」
「はい?なんですか、急に」
室内に入ってくると同時にずかずかと近づいてきて、
すぐ隣に腰を下ろしたヒノエの突然の言葉に読んでいた書物から顔を上げて
目をきょとんとさせ首を小さく傾げる弁慶。
ヒノエはそんな弁慶の様子に構うことなく文机の上に置かれていた弁慶の左手を掴んで自分の前に持ってこさせる。
そして目の前にある弁慶の左手をじーっと凝視し始めた。
「何をしてるんです、君は」
何の言葉もなくただひたすらに手を見つめるヒノエに、どこか居た堪れなく感じた弁慶が口を開く。
だが返事はなく、ヒノエは視線だけを軽く上げると、何事もなかったかのようにまた弁慶の左手を見つめる。
ヒノエの行動はいつも突拍子もないことが多いが、今日はまた特別だ。
軍師と名高い弁慶の頭を持ってしてもこの行動の意図が全くわからない。
弁慶は掴まれた左手を振り解こうと軽く動かしてみるが手を掴むヒノエの腕の力が緩むことはなく、
どこか諦めたようにため息を吐いた。
しょうがないのでヒノエの気がすむままにさせていたら、
しばらくしてヒノエがぽつりと小さな声で「大丈夫そうだな」と呟いたのが弁慶の耳に届く。
「何が大丈夫なんですか」
ヒノエの不可解な行動に半ば呆れ混じりに問いかける弁慶だったが、
ヒノエはその問いに答えることなく自分の懐を探り始める。
そしてすぐに目的のものを見つけたようでごそごそと取り出した。
ヒノエの懐から取り出されたのは手のひらに収まるくらいの小さな布の袋。
淡い萌黄のその袋の中には何か入ってるらしく、少しだけ布地が盛り上がっている。
ヒノエは器用に片手で中身を取り出すと、未だに掴んでいる弁慶の左手にそれをつけた。
そして視線を上げると楽しそうに笑いながら言う。
「望美から聞いたんだけど、望美達の世界では生まれた日を祝う習慣があるんだってさ」
「そういえば、望美さんがそんなことを言っていましたね」
何かの折に望美がそういった話をしていた。
この世界では歳が変わると同時に皆いっせいに歳を重ねるが、
彼女たちのたちの世界では生まれた日に一つ歳を重ねて、それを親しい人たちと祝うのだと。
生まれてきたことを、無事に成長できたことを喜び、祝うための日なのだと。
楽しそうにそう話しながら、「戦が終わったらみんなでお祝いしましょうね」と笑っていた。
「で、今日はアンタの生まれた日だろ。だからこれやるよ」
そう言ってチラリと視線を弁慶の左手に向けるので、弁慶も釣られてそちらを見る。
弁慶の左手の薬指で光るのは先ほどヒノエによってつけられた指輪。
宝石などはついていないが、代わりに小さな花の模様が刻まれた凝った仕様になっていて。
それは見事に弁慶の指の大きさに合っていた。
初めて見る指輪に戸惑う弁慶の様子に満足そうに目を細め、さらに言葉を続ける。
「この指輪っていうのは、なんでも永遠の愛を捧げる相手に贈るものなんだってさ」
言い終わるのとほぼ同時にヒノエは軽く身を屈め、弁慶の左手の薬指で光る指輪に軽く口付ける。
ヒノエの流れるような行動に何を言われたのか理解できていなかった弁慶だったが、
その意味を理解するとその瞳が見開かれ、頬がうっすらと朱に染まった。
「もちろん、受け取るよな」
ヒノエは弁慶の左手を取ったまま、不適な笑みを浮かべる。
緋色の瞳は強く輝き、否と言われるなんて微塵も思ってないのが伝わってくる。
弁慶は見開いていた瞳をそっと伏せ、思案する。
この指輪を受け取るということ。
それがなにを意味しているのかわからないほど愚かではない。
ヒノエのことを、熊野のことを思うのなら受け取ってはいけない。
そうわかっているのに。
それでも――
開いた瞳に映るヒノエの笑みを拒むことなどできるはずもなく。
「……しょうがないですね」
そう言った弁慶はとても幸せそうに微笑んでいた。
この瞬間に愛を誓おう
(後悔してもしりませんよ)
(後悔なんてするはずないだろ)
END
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HAPPY BIRTHDAY!弁慶さん!!!
永遠の25歳万歳\(o^▽^o)/
今年はお祝いできたよ、よかった(=v=;)
なんとか間に合いました。
直前まで全然ネタが浮かばなくてどうしようかと思ったけども、最終的にはこれで決まりました。
意味不明なのはいつものことさ。
慌てて制作したのでおかしなところとかあるかもですが、そこはまぁ笑って許してやってください。
ちなみに指輪の入れ知恵したのは何気に将臣だと思います(笑)
彼ならからかい混じりにそういうことを教えそうだ。
それでは読んで下さってありがとうございました。
2009.02.11