たとえ何度生まれ変わっても、必ずこの道を選ぶ








仲間を乗せた昇降機が見えなくなるのを確認すると、リオンはレバーの前に腰を下ろした
崩れ始めた洞窟の壁からは海水がドンドンと入ってきて、リオンの足元はすでに海水に沈んでいた


「付き合わせてすまないな、シャル」


そう言ってリオンは腰からシャルティエを抜き取ると慈しむように胸に抱き締めた

「どこまでもお供しますよ………僕のマスターは坊っちゃんですから」

その声はとても優しく、冷たい筈のその剣に確かな温もりを感じた


幼い頃からずっと側に居たシャルティエはリオンにとって父であり、兄のような存在で、家族の愛情を知らず育ってきたリオンにはシャルティエだけが家族と呼べる存在だった



姉の存在を知るまでは………



幼い頃、シャルティエに聞いて初めて知った姉の存在



同情でも憐れみでもなく、自分を愛してくれるかもしれない




それは絶望の中で見つけた唯一の"希望"




いつか逢える―――ただそれだけを願って生きてきた





何年か過ぎ、風の噂で『強欲の魔女』の異名を持つレンズハンターのことを知った




ルーティ・カトレット




母親と、そして何より自分と同じカトレットの姓を持つ―――それは血の繋がりの証




けれど耳に入る噂は悪い物ばかりで、本当に自分の"姉"なのか確かめたかった








そして運命のあの日、姉弟は初めて対峙した








ハーメンツで逢った時、やはり彼女は自分の姉なのだと感じた





母親譲りの黒い髪も、紫宛色の瞳も自分と同じで―――






でも理屈などではなく心が彼女は"姉"だと訴えていた






神の眼を追うため共に旅をすることになり、気がつけばルーティを目で追っている自分がいた



うるさくてガサツで意地っ張りで金にがめつくて、いつも口喧嘩ばかりしていた




けれど時々見せる優しさは




温かかった








「ヒューゴの死んだ妻の名はクリス・カトレット………クリスは………僕の母でもある………認めたくないことだが、お前と僕には全く同じ血が流れているのさ」



そう伝えた時、彼女の瞳が大きく見開かれた



当然だろう

いきなり姉弟だと言われて驚かない訳がない


まして相手がさっきまで剣を交えていた裏切り者なのだから







伝えるべきではなかったのかもしれない





真実は彼女を苦しめるだけなのだから







けれど―――――






忘れないで欲しい………







自分という存在があったことを








せめて………せめて彼女だけには


『エミリオ・カトレット』


を覚えていてほしい





それが例え憎悪の気持ちからであっても


彼女が覚えているだけで、自分は存在していた証になるから








「これでよかったんだろう、マリアン………」




たとえ同情からであっても、初めて"愛"を教えてくれたマリアンを見殺しにすることはできない



けれど、やっと逢えた"姉"を、仲間を殺すことなどできる筈がない





だから



「後は任せた」




世界を




マリアンを




そして姉さんを





初めて信頼しあえた仲間なら、自分の代わりに大切な人達を守ってくれる―――


そう信じられる





ドカッ



洞窟の天井が崩壊し、水が一気に流れ込んできた






仲間は、そして彼女は無事に逃げることができただろうか









薄れていく意識の中、頭に浮かんだのは仲間達の顔








そして








"姉"の泣き顔






どうせ思い出すなら笑顔を思い出したかったけど





仕方ない




自分は"姉"を傷付けてばかりだったのだから





だから、最後に願おう






それが、"弟"として"姉"にできる唯一の贈り物







"姉さん、どうか幸せに………"








その呟きは誰の耳にも届くことなく水にのまれた





END